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音楽を楽しみながらフードロスを考える。「食べる」の未来を考える企画展【食のミライ放送局】現地レポート

気候変動の影響でフルーツ不足が常態化し、生の果肉は一部の人だけしか食べられなくなる? 将来はAIがデザインした理想のフルーツができる? そんな「食の未来」にまつわるさまざまな問題や可能性について考える「食のミライ放送局」が、大阪・うめきた公園内のPLAT UMEKITAで今年1月に開催された。誰にとっても身近な「食べる」の現在と未来を、遊びながら知ることができる貴重な機会。多くの人が足を運んだ企画展の様子を、1日目のトークショー「ミライのグルメ」、2日目の「フード・ミュージック・ライブ」を中心にレポートする。
- 取材・執筆
- 榎並紀行(やじろべえ)
- 撮影
- 原 祥子
- 編集
- 榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(CINRA, Inc.)
「未来のフルーツパフェ」はどうなる?
2025年1月25日〜2月2日まで開催された「食のミライ放送局」。PLAT UMEKITAが食の未来をテーマにした「体験型放送局」になり、トーク、ライブ、体験型の展示やワークショップ、さらには「未来の食材」を味わえるマルシェなどを実施した。




オープニングを飾るトークショーのテーマは、「ミライのグルメ」。
気候変動や農業の担い手不足、フードロス問題など、食をとりまく課題は少なくない。一方で、それらの解決手段となり得る取り組み、技術の検討なども国内外で進む。これらをふまえて、「未来のフルーツパフェ」「未来のステーキ」「未来のたこやき」など、未来のメニューを考えていくという趣旨だ。
たとえば、「未来のフルーツパフェ」はどうなっているのか。ポジティブ・ネガティブの両面から考えていく。
まず、ポジティブな未来として提示されたのは、新しい農法や画期的なテクノロジーを用いた「新世代フルーツ」が盛りだくさんのパフェ。

「甘さや酸味、香りをAIが遺伝子レベルでデザインし、多段階品種改良で生産された“理想のベリー”や“糖度UPリンゴ”などが使われている」「都市部での室内栽培(垂直農法)やコールドチェーンの進化によって年間を通じた安定供給が可能になり、旬のフルーツが贅沢に盛り込まれている」
ポジティブな未来では、こんな「進化したフルーツパフェ」が食べられるかもしれないという。

一方で、ネガティブな未来では……
「気候変動の激化と技術普及の遅れでフルーツの生産量が激減する」「フルーツといえば合成フレーバーや人工着色された加工品ばかりになり、フレッシュな果肉は希少品に」「本物のフルーツは富裕層向けの超高級パフェにしか使われなくなる」
といった、厳しい見解が示された。

フルーツだけではなく、肉や野菜、米、魚など、いまはあたりまえに食べられているものが、将来はまったく違う姿になるかもしれない。たとえば、「米とパンのミライ」というトークテーマでは、「国産米と小麦が高騰し手が届かず、工場で合成したデンプンをゼリー状に固めた『主食パック』が庶民の定番に」という衝撃的な予測も。
こうなるともはや、食は単に栄養を摂取するためだけのものになり、愉しむという側面が損なわれてしまう。改めて、いまはあたりまえの「食を愉しむ」という文化の尊さと、それができなくなるかもしれない未来について考えさせられるトークショーだった。

テーマがテーマだけに空気が重くなりかけた時間もあったものの、もぐもぐ★の「合いの手」とゲストたちのかけ合いが緩衝材となり、全体的にゆるいムードでトークショーは進行。PLAT UMEKITAが掲げる「エシカルテインメント」の理念どおり、楽しみながらエシカルについて知る機会となった。





廃棄野菜で音楽を奏でる「フード・ミュージック・ライブ」
2日目に行われたのは「フード・ミュージック・ライブ」。規格外の野菜や廃棄野菜を「楽器」にして音楽を奏でるという試みだ。



野菜を「演奏」するのは、音楽プロデューサーでビートメーカーのkafukaさんと、エレクトロ音楽アーティストのEryyyさん。各々が30分ずつライブを行い、最後は二人でセッションする。



「誰か演奏してみたい人いますか?」
kafukaさんが呼びかけると、会場の子どもたちが代わる代わるステージへ。見慣れた野菜を触るだけで演奏できるという気軽さから、多くの子どもが積極的に参加しセッションを楽しんでいた。



途中休憩を挟み、合計90分のフード・ミュージック・ライブは終了。公園を行き交う多くの人々が足を止め、飛び入りでセッションに参加するなど大いに盛り上がった。


今回のライブの狙いは、音楽を通じてスーパーではあまり見かけることのない「規格外の野菜」について知ってもらうこと。それが廃棄野菜やフードロスの問題と直接は結び付かなかったとしても、各家庭の食卓などでふとライブの話題になり、何らかのエシカルなアクションにつながるかもしれない。たとえば、子どもたちのなかに野菜を残さず食べる意識が生まれるだけでも、大きな一歩だ。
イベントやライブを楽しんでもらうことで、参加者がエシカルについて考えるきっかけを灯す。PLAT UMEKITAが目指す「エシカルテインメント」のコンセプトが体現されたような2日間だった。

イベントを重ねるごとに「エシカルテインメント」を進化させていく
イベントの企画運営を主導したCINRAの矢澤拓は、今回のイベントで伝えたかったことや手応えを次のように語る。
「食べることは誰にとっても身近でありながら、エシカルの視点が入ると途端に難しくなったり、深刻なテーマが介在してきたりします。ときには目を背けたくなるような現実とも向き合わなくてはならないため、そこにどう楽しさを盛り込むかが大きな課題でした。
そこで、今回はフードロスなどの問題をストレートに語るのではなく、 もぐもぐ★というキャラクターや廃棄野菜を使った音楽ライブを通じて、まずは食の未来について考えるきっかけをつくることを目指しました。実際、子どもたちを中心に多くの人がイベントを楽しんでくれて、ある程度は期待通りの結果になったのかなと思います」




一方で課題も見えたという。特に難しさを感じたのは、エシカルとエンタメのバランス。エシカルに寄り過ぎると、ふらっと立ち寄った人が楽しめず、エンタメに振り切ってしまうとただ楽しいだけで終わってしまう。今回のトークショーでも、難しい話題になると子どもたちが席を離れてしまうことがあった。
「気軽に楽しむことを大事にしつつも、運営側としてはさまざまな問題について『ちゃんと知ってほしい』という思いもあります。イベントに関心を持ってくれたお客さんを飽きさせず、いかにエシカルの視点をインストールしていくか。そのために、まだまだ改善すべき点は多いと感じました」(矢澤)
PLAT UMEKITAでは今後も、エシカルと音楽、アート、演劇などをかけ合わせたイベントを仕掛けていく予定だ。今回の課題をふまえてさらにブラッシュアップし、この場所ならではのエシカルテインメントを進化させていく。
演奏で使った野菜や果物はスタッフみんなでその場で食べたり、持ち帰って鍋にしたりしました
