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梅田の都市公園でどんな未来をつくる? PLAT UMEKITA企画編集室が語り合う
2024年9月6日、うめきた公園内に開設されるPLAT UMEKITA。「エシカルテインメント」をテーマに掲げ、さまざまな体験型の展示やイベントを展開していく予定です。
オープンを前に、その仕掛け人であるPLAT UMEKITA企画編集室のメンバーが集合。この場所で何をやろうとしているのか? まちや訪れる人たちにどんな価値を与える場になるのか? PLAT UMEKITAがつくりたい未来について語り合ってもらいました。
- 取材・執筆
- 榎並紀行(やじろべえ)
- 撮影
- 大畑陽子
- 編集
- 榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(CINRA, Inc.)
廃材を活用した一輪挿しづくりをしながら、それぞれの役割を語ってみた
PLAT UMEKITA企画編集室とは?
うめきた公園の中心にある体験型共創拠点PLAT UMEKITAでは、エシカルとエンターテイメントをかけ合わせた「エシカルテインメント」をテーマに、さまざまなイベント、展示、ワークショップなどを開催していく。そのコンセプト設計からイベント企画、運営までを行なうのが「PLAT UMEKITA企画編集室」。運営母体であるTOPPANのほか、エシカルやサステナブル分野に知見を持つハーチ、アートやカルチャー文脈に強いCINRA、新規事業を生み出す人材を育成する事業構想大学院大学の4者でチームを結成し、「公園の過ごし方」や「日々の暮らし」を遊びながらアップデートするような体験プログラムを仕掛けていく。
エシカルテインメントとは?
「ETHICAL(倫理的な)」と「ENTERTAINMENT(娯楽)」をかけ合わせた造語。PLAT UMEKITAの基本姿勢を表したもので、エシカルを近寄りがたいものではなく、体験型のイベントなども通じた、誰もが楽しめる形で提示していく。
――というわけで、今回は「PLAT UMEKITA企画編集室」のメンバーであるTOPPANの木村さんと鳴河さん、ハーチの内海さん、CINRAの坂井さんに集まってもらいました。みなさんには、それぞれがPLAT UMEKITAで何をしていくのか、ここからどんな価値を生み、どのような未来をつくっていくのか語り合っていただきたいと思います。
――本題に入る前に、PLAT UMEKITA企画編集室の座組みについて教えてください。なぜ、みなさんが共創するかたちになったのでしょうか?
木村
僕と鳴河の役割は全体のコンセプト設計や、大まかな方向性を決めること。また、ここで開催するさまざまなイベントや、のちほど説明する「習慣的ワークプログラム」などを、企画編集室のメンバーと一緒につくっていくことです。
内海
ハーチの主な役割は「エシカルテインメント」の「エシカル」の部分についての監修、それからPLAT UMEKITAのIDEAS LAB.というエリアに設けられる常設展示と習慣的ワークプログラムの企画・制作です。ハーチはこれまで、世界中の社会をよくするアイデアを発信する「IDEAS FOR GOOD」などのメディア運営、サステナビリティやサーキュラーエコノミーを推進したい企業の支援などを行なってきました。そこで培った新しい価値観や知見、つながりをPLAT UMEKITAに還元していきたいと思っています。
坂井
CINRAは「エシカルテインメント」の「テインメント」の部分を担います。私たちはこれまで、ソーシャルイシューとカルチャーをかけ合わせた記事を発信する「CINRA」というメディアを運営してきました。特に音楽や映画、演劇、アートなどの分野に強みがあり、これらをいかにエシカルと組み合わせるか。そのためのサポートを行なうのが主な役割ですね。
季節ごとに内容が変わるプログラムの企画から関わっていて、9月から開催される『アップサイクルアニマルズ』というオープニングイベントもTOPPANさんと一緒につくっています。また、この記事も含めた施設メディアの記事制作も担当しています。
木村
今回都合があわず参加が叶わなかったのですが、事業構想大学院大学さんはうめきた公園のすぐ近くにある大阪校で、新事業を生み出す人材育成をしています。さまざまな企業で新規事業やサービスの開発に携わっている、地元のワーカーのみなさんとのネットワーキングや研究プログラムを通じて、PLAT UMEKITAらしいあたらしい価値観の事業開発なども視野に参加いただいています。
――みなさんはこのプロジェクトに初期段階から、数年単位で関わっているそうですね。チームでつくりあげてきたPLAT UMEKITAがいよいよオープンするということで、喜びも大きいのでは?
鳴河
そうですね。私自身は2022年に新卒でTOPPANに入社しましたが、そこから2年にわたってこのプロジェクトに携わってきました。当時は「エシカルテインメント」というコンセプトは決まっていましたが、具体的に何をやるかは未定という段階で。具体的なイベントの企画などを考える手前の、「私たちが届けたいエシカルテインメントとは何か?」という方向性や定義を固めるところからスタートしました。
「エシカル」といっても、どれくらいの内容が望ましいのか、「テインメント」の部分については、訪れる人にどうやって楽しさを感じてもらうのか。ハーチさん、CINRAさんと一緒に、ふわっとした理想も含めて語り合うところから始めて、開業が近づくにつれ具体的なイベント企画をつくっていったり、ウェブサイトを立ち上げたりと、一つの場所ができあがっていくのを初期から見てこられたのは、個人的にも大きな経験になりましたね。
坂井
私は大阪駅近隣にある商業施設の仕事もしているのですが、そこの高層階のテラスからうめきた公園の敷地が一望できるんです。ですから打ち合わせがあるときはその度にテラスに行き、少しずつ公園ができあがっていく様子を写真におさめていました。いよいよオープンとなり、本当に感慨深いものがあります。
内海
私もみなさんと同じように感慨深いのですが、ハーチという会社にとっても大きなチャレンジだったと感じています。これまで私たちの会社が手掛けるイベントはオンラインが多く、こうしたリアルな場、しかも公園といういろんな人が集まる場でコミュニケーションをするイベントに携わることはありませんでした。
社内も含めチームでかなり模索しながら進めていっただけに、それがひとまずかたちになるというのはやはり嬉しいですし、ワクワクしますね。
――それぞれ得意な領域が異なる会社が集まったことで、どんなシナジーが生まれているのでしょうか?
鳴河
PLAT UMEKITA企画編集室のメンバーはそれぞれの会社の文化も、そこに在籍している人の雰囲気も、普段取り組んでいる仕事もまるで異なります。当然、考え方だったり、視点だったり、集めている情報もまったく違う。打ち合わせの度に新しい発見がありますし、すごく刺激を受けますね。
私たち自身、エシカルテインメントの「正解」が見えているわけではありません。というよりも、そもそも正解はなく、常に試行錯誤しながら考え続けていかないといけないコンセプトだと思うので、異なるバッググランドを持つメンバーの集合知を活かすことがとても重要です。実際、4社のメンバーが集まったときは多角的にさまざまな可能性を探りつつ、より良いものにするためのアイデアが活発に飛び交っています。
鳴河
もう少し具体的に言うと、ハーチさんに関してはエシカルやサステナブル、さらには世界の社会課題にまつわる幅広い知見をお持ちなので、企画を考える際などにいつも助けられています。社会課題って一つの「正解」があるような単純なものではなくて、立場が違えば正反対の意見も出てきます。
たとえば、「アップサイクル」というテーマ一つとっても、「アップサイクルが浸透すると、廃棄の常態化につながりかねないのではないか?」「そもそもゴミを出すこと自体を控えるべきではないか?」という考え方もあり、そこから目を背けることはしたくありません。そうした、私自身が普段あまり突き詰めて考えられていないところまで、ハーチさんの知見に基づく俯瞰した視点からアドバイスをいただけるので、とても頼りになりますね。
――「正解」を押しつけるのではなく、さまざまな考え方や解決策をふまえつつ、そのなかの一つのアイデアとして「アップサイクル」を紹介するということですよね。
鳴河
そうですね。そうやっていろいろな考え方や解決策を、私たち自身も来場者の方々と一緒に学び、アップデートしていけたらと考えています。常に学び続けることで、たとえば次にアップサイクルをテーマに何かやるとしたら、もう一つ別の視点を加えたり、新しい考え方も提示できたりすると思うんです。
それからCINRAさんとのシナジーに関しては、そうですね……。
坂井
そこで詰まると、何もないみたいになっちゃう(笑)。
鳴河
いや、いっぱいありすぎてどれを言おうかと(笑)。ただ、やはりアートやカルチャー関連の知識や情報量、豊富なネットワークといったところは本当にすごいなと思います。
たとえば、9月に行なうPLAT UMEKITAのオープニング体験型イベント『アップサイクル・アニマルズ』では、どうすれば企画に厚みが出るか、カルチャー視点から展示の構成をプランニングしてくれました。会場内に作品を展示いただくアーティストや、ワークショップに協力いただく企業をご紹介いただくなど、CINRAさんならではの人脈にも助けられています。
あとは、アップサイクル・アニマルズでは廃棄される予定だったパレットを展示の什器として使うのですが、イベント終了後にそのパレットがゴミになってしまったら意味がないですよね。そこで、CINRAさんに版画家さんをアサインしてもらい、そのパレットの一部をまた別の作品としてアップサイクルしようと考えています。そうやって、私たちにはないクリエイティブなアイデアをいただけるのが、本当にありがたいですね。
「遊びながら」アップサイクルを学べるイベントとは?
――では、2024年9月にオープンするPLAT UMEKITAの、当面のイベントや活動について教えてください。
木村
まず9月6日のオープンに合わせたイベントとして、先ほど鳴河が話した体験型イベント『アップサイクル・アニマルズ』を9月29日まで開催します。アップサイクルをテーマにダンボールや木材、日用品などの廃材を活用して製作された「動物彫刻」「楽器類」「コンポスター」を組み合わせ、動物園に見立てた体験型インスタレーションと、期間中に開催されるさまざまなワークショップで構成されるという内容なのですが、詳しい説明はCINRAの坂井さんに任せます(笑)。
坂井
はい(笑)。今回の展示では、ダンボール彫刻家の本濃研太さん、日用品や廃品で楽器をつくるアーティストのkajiiさんにご協力いただき、「いきものと音を奏でるアートの森」をつくりました。会場にはダンボールでできたいまにも動き出しそうな動物たち、いろんな廃棄素材からつくられた楽器類が散りばめられていて、それらが堆肥をつくる手回しコンポストの動力によって動いたり、光ったり、音を奏でるという仕組みですね。訪れる方が遊びながら、アップサイクルを楽しく体験できる展示になっていると思います。
また、週末には本濃さん、kajiiさんとダンボールを使ったお面づくりや楽器づくりを体験できるワークショップも行ないます。ちなみに、1月には「食」にまつわるイベントも企画していますし、今後も年間でいくつかこうした自主企画を開催していく予定です。
――まさにエシカルテインメントを体現するような、楽しい企画ですね。
木村
オープニングイベントのテーマについては、いろいろな候補がありましたが、最終的に「アップサイクル」にしたのは、生活のなかで出る身近なゴミを取り扱うということで多くの人にイメージしてもらいやすく、なおかつ面白い体験に落とし込みやすいと考えたからです。
公園内にあるガラス張りの空間に不思議な動物や楽器があって、ぷらっと立ち寄るだけでも楽しんでいただけますし、より興味を持った方には週末のワークショップでより深くアップサイクルを体験してもらう。そして、その作品を自宅に持ち帰ってもらう。私たちは「エシカルを家に持ち帰ってもらう」と表現していますが、そこまで含めた体験をぜひ多くの人に味わってもらいたいですね。
――このオープニングイベントのあとは、エシカルにまつわる常設展示や、先ほどから話に出ている「習慣的ワークプログラム」も始まると。
木村
そうですね、常設展示と習慣的ワークプログラムは10月から本格的に始動します。こちらの説明は内海さんからぜひ。
内海
まず常設展示ですが、エシカルやサステナブル、ウェルビーイングなどの新しい価値観を、最新のグッズやサービスなどを通じて提示します。展示内容は2か月ごとに入れ替わり、年6回行なう予定です。習慣的ワークプログラムは、常設展示で扱うテーマの知見をさらに深めたり、それを行動につなげていったりすることを目的に、スクールやワークショップを開催していきます。
たとえば、10月は「アップサイクル」がテーマなので、アップサイクルに対して関心がある人、同じ思いを持つ人が集まり、一緒にアクションしながら自然とコミュニティをつくっていけるようなプログラムを予定しています。
――先ほど、「習慣的ワークプログラム」の企画書を見せていただきましたが、どれも楽しそうです。特に、「まちの廃材を探すフィールドワーク」というのが気になりました。
内海
大阪でごみをテーマにしたコミュニティ「ごみの学校」を運営する寺井さんにご協力いただき、フィールドワークを行なう予定です。ほかにも、さまざまな専門性をもったパートナーと楽しく取り組めるワークプログラムを用意していますので、ぜひ気軽にご参加いただきたいですね。
「先生になりたいわけじゃない」。大切なのは来場者と一緒に楽しむ姿勢
――こうした常設展示やワークプログラムをつくるにあたっても、やはり「エシカルテインメント」ならではの楽しさや、とっつきやすさみたいなことを意識されているのでしょうか?
内海
そうですね。そもそも公園ってみんなに開かれた場所であって、必ずしもサステナビリティに関心を持つ方ばかりが集まるわけではありませんよね。どんな場所だったらより多くの人に楽しんでいただけるのか、チームで何度も議論を重ねました。エシカルやサステナブル、SDGsみたいなところを突き詰めすぎると近寄りがたくなってしまうし、そのバランスはやっぱり難しくて。
木村
そこはいまも悩んでいるところではありますね。内海さんがおっしゃるとおり、すべてをストイックにやろうとすると窮屈なものになって楽しくない。最初にお話ししたように、私たちは先生になりたいわけじゃないんです。あくまでPLAT UMEKITAはさまざまな課題をなるべくフラットに、とっつきやすいかたちで提示して、訪れた人に考える機会を提供できるような場になればいいのかなと思います。
――そのためにも、木村さんが冒頭でお話しされていたように、PLAT UMEKITA企画編集室のメンバー自身が「来場者と一緒に楽しむ」という姿勢が大事になってきますね。
木村
そうですね。以前に勤めていたイベント会社で先輩から「お前が楽しくないと、お客さんは楽しくないよ」と言われたことがあるのですが、まったくそのとおりだなと。エシカルを扱うにしても、まずは私たちがそれを楽しいと思えるかどうかが最初にあって、その楽しさが自然と伝わっていくというかたちが望ましいと思います。
考え方としてはゆるいかもしれないし、ストイックにテーマと向き合っている人にはお叱りを受けてしまうかもしれないけど、そこはブレることなくいきたいですね。
せっかく、公園というパブリックスペースでこういうことができるわけですから、ここから世の中を少しでもよくしていこうという人が増えていくよう、よりよいやり方をチームのメンバーで考え続けていきたいです。
木村和也(きむら・かずや)
繊維商社、ライブプロモーター、映画配給会社を経て、2010年凸版印刷(現・TOPPAN)入社。企業や官公庁のイベントのプロデュース・企画を担当。現在は場づくりやコミュニティの観点で広くまちづくりや新施設開発における戦略策定、コンテンツ設計、企画制作に携わる。映画と頭足類が好き。
鳴河まゆ(なるかわ・まゆ)
武蔵野美術大学 造形学部 日本画学科卒業後、2022年凸版印刷(現・TOPPAN)入社。入社以来、自主事業の新規事業開発に携わり、PLAT UMEKITAの企画開発のほか、小中学校向けに「キャリア教育」をテーマにした新サービスを企画中。犬とお散歩するのが好き。
内海有祐美(うつみ・あゆみ)
2020年ハーチ入社。サーキュラーエコノミー・サステナビリティ推進を目指す企業や地域の支援に従事。日用品メーカーやアパレル、不動産、商社、教育など幅広い業界を担当。PLAT UMEKITAでは、IDEA LAB.に設けられる常設展示の企画・制作を主に担当。CSRリーダー / エシカル・コンシェルジュ。プラントベースフードが好き。
坂井俊之(さかい・としゆき)
2021年CINRA入社。前職での現代アートのディレクターの経験を活かし、さまざまな分野のクリエイターを絡めた商業施設の販促企画や企業PR、ウェブサイト制作などを主に担当。木彫りの熊が好き。