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未来の古着屋がPLAT UMEKITAに誕生!学生たちが紡ぐファッションの新たな価値
2025年10月11日から20日まで開催された企画展「WEAR TO GO? 〜着るの未来を考える〜」。PLAT UMEKITA初の「ファッション」をテーマにしたイベントで、衣服の循環や再定義について考える実験的な試みだ。
生活、文化の両面から欠かせないものである一方で、環境に大きな負荷をかけるという側面もあるファッション業界。その課題や解決方法について、さまざまなアプローチを考えていった。そのなかから、メイン企画の一つである「未来の古着屋」と「ファッションと社会」について議論するトークセッションの内容を中心にレポートする。
- 取材・執筆
- 榎並紀行(やじろべえ)
- 撮影
- 上村窓
- 編集
- 服部桃子(CINRA, Inc.)
学生がプロデュース!3日間限定「未来の古着屋」オープン
衣類は日用品であると同時に、生活に楽しさや彩りを与えてくれる文化でもある。一方で、衣類の生産から廃棄までの過程で環境に大きな負荷をかけるなど、産業としての持続可能性という点で課題を抱えている。そんな背景をふまえ、「着るの未来」、つまりファッションの今後のあり方について考える企画展が「WEAR TO GO? 〜着るの未来を考える〜」だ。
メイン企画の一つが、PLAT UMEKITA内に3日間の期間限定でオープンした「未来の古着屋」。大阪文化服装学院でファッションビジネスを専攻する学生たちがプロデュースした古着屋で、コンセプト設計、古着のセレクト、店舗(ブース)やロゴのデザイン、イメージビジュアルやムービーの撮影、さらには当日の接客まですべてを手がけたという。
どのショップもイベント用の急ごしらえではなく、ここに至るまでの入念な準備と労力、思いの強さが感じられるクオリティ。ファッションビジネスを専門的に勉強している学生とはいえ、そのレベルの高さに驚かされる。
「着るの未来」という簡単ではないテーマに自分たちの表現したいこと、トレンドなども加味したコンセプトを作り上げるだけでも難儀しそうだが、3つのショップはいずれも消費者の共感を呼ぶ、魅力的なブランドに仕立てられていた。さらには、そのコンセプトを具現化するスキルや実行力も素晴らしい。
今回ショップに並んだ古着は、「RELEASE⇆CATCH」の使用済み衣服回収BOXで回収されたもの。なかには廃棄寸前のものもあり、学生自身も当初は「本当に売れるのか?」と半信半疑だったという。
しかし、そこに日頃の学びの成果を生かしたコーディネートやブランディングといった付加価値を与えることで、多くの人の関心を呼ぶ。どのショップも初日で多くのアイテムが売れてしまい、2日目からはセット販売のコーディネートに苦労するほどの盛り上がりを見せた。
最終的に「EPOLU」は165枚、「RE:evolve」は174枚、「BLOOM ARCHIVE」は147枚の古着を販売。合計486枚の古着に、新しい価値を与えることに成功している。
利益と環境のバランス、どう考える?
公開講評会に続いて行われたトークセッションには、岩崎氏、大阪文化服装学院の常務理事でサステナビリティ・ディレクターの加藤圭太氏、講談社『FRaU』エグゼクティブ・プロデューサーの関龍彦氏、ファシリテーターとしてPLAT UMEKITA企画編集室の木村和也(TOPPAN株式会社)が登壇。
「環境視点でのファッション業界としての今後の歩みについて」をテーマに、産業全体が抱える課題、目指すべき方向について語ったほか、さらには今後の業界を担う学生たちへのメッセージも送った。
登壇者の自己紹介やそれぞれの活動について簡単な説明があったのち、まず議題に上がったのは「ファッション業界における環境意識の広がり」について。ひと昔前に比べれば危機感を持つ企業や関係者が増えたものの、業界全体としては十分に取り組みが進んでいるとはいえない現状。大阪文化服装学院でサステナビリティ教育を推進する加藤氏は、これから業界を担う若者に対して、ファッション業界が抱える構造的な問題を体系的に教える機会が重要だと語る。
加藤
大人はよく「われわれよりも若い人のほうがサステナブルのことをよっぽど知っているし、考えている」と言いますよね。でも、私はそれって少し乱暴な言葉だと思うんです。たしかに、若い人の環境意識は非常に高いと思います。
でも、意識は高くても「実際に世界でどんな問題が起きているのか、自分が目指す業界の課題は何か」ということを、十分に把握しているかというと、そうとは言い切れない。大人は冒頭のような言葉で若者に問題を丸投げするのではなく、ファッションと環境について体系的に学べる場をつくっていく責任があるのではないかと思います。
この加藤氏の意見に岩崎氏も同調。岩崎氏自身、ヒューマンフォーラムで先陣を切って環境への取り組みを進めているが、社内でサステナブルに対するマインドが高まっているかというと、なかなかそうとは言えない状況だという。
岩崎
ヒューマンフォーラムは、もともと洋服が好きな人たち、かっこいいことが好きな人たちが集まって、30年前に立ち上がった会社です。そんななかで、数年前から僕がいきなり「環境だ、サステナビリティだ」と言い始めたわけですが、それがほかの取締役や若い人も含めた従業員に響いているかというと、正直微妙なところです。
ときには、「岩崎さんのやってることって儲かるんですか?」と言われてしまうこともある。たしかに、会社における利益とサステナビリティのバランスというところを考えると、非常に難しい部分もあります。ただ、やはり会社に一人でもそのことを言い続ける人がいないといけないと思うんですよね。
利益と環境への取り組みのバランスをいかにとるか。すべての産業に共通する課題だが、環境に与える影響が大きいとされるファッション業界では特に意識すべきテーマといえる。しかし今はまだ、どうしてもビジネスに比重が傾いているのが現状だ。
関氏がエグゼクティブ・プロデューサーを務める『FRaU』は2018年12月、国内女性誌では初となる「一冊丸ごとSDGs特集号」を刊行した。以降もフードロス、ジェンダー、働き方改革、寄付や投資、旅などさまざまなテーマで号を重ねているが、「ファッション」というテーマではなかなか雑誌を作れる状況ではないという。
関
雑誌というのは広告費がなければ作れません。最近はSDGsにまつわる理解が進み、関連するさまざまなテーマの特集号に広告がつくようになりましたが、それでも「サステナブルファッション」というテーマではお金を出してもらえないのが現状なんです。
ただ、ファッション業界はジーンズ1本分の布を生産するのに1万リットル以上の水を必要とするなど、非常に環境に負荷を与える産業。個人的にも大きな問題意識を持っていますし、サステナブルファッションという特集に対してお金を出してもらえるくらい、業界全体で空気を醸成していく必要があると考えています。
古着に新しい物語を。学生たちの手から生まれる価値
こうした現状を打ち破る鍵になるのは、クリエイティブの力だと3人は声を揃える。例えば、今回の「未来の古着屋」では、本来はゴミになるだけだった古着が、アイデアや見せ方一つで魅力的なファッションとして受け入れられた。まさにビジネスと環境への取り組みを両立する、一つのかたちを示したと言えるだろう。
加藤
これからファッションの世界に飛び込もうとする若い学生にとって、環境やサステナブルは避けては通れないテーマです。何かを生み出す際に、それが“枷”になると感じることもあるでしょう。
ただ、私は逆にそれをアイデアの源泉にすることだってできると思います。そもそも何かを作る際には、予算や素材など、いろんな制約があります。そして、制約があるからこそ、それを乗り越えるアイデアが生まれることも事実です。ですから、サステナブルというテーマに対しても、難題ではありますが、前向きに挑んでもらえたらと思います。
岩崎
サステナブルという観点でいうと、環境のこともそうですし、貧富の差の拡大という問題もあると思います。特にグローバルに古着業界をみると、古着を仕分けする現場で働く人たちは、ずっと低賃金という状況が今もあります。
それでも、ゴミ山のなかからかき集めた古着で商売を初めて、2年後にはベンツに乗っているようなワーカーが現れるなど、自力で窮状を乗り越える人たちも見てきました。僕は、若い力やクリエイティブの力は、社会構造をもひっくり返すほどのエネルギーを持っていると信じています。ここにいる学生さんたちにも、ぜひそうした意気込みを持って社会で活躍してほしいですね。
「着るの未来」を作る、若者たちの決意
イベント終了後、「未来の古着屋」で店長を務めた3人の学生に、感想を聞いた。
「廃棄寸前の洋服でも、ファッションに詳しい人が魅力的なスタイリングを提案し、新しい人に引き継がれることで新しい価値を与えられるという経験はとても新鮮でした。また、この『未来の古着屋』という試み自体を面白いと感じてもらい、それまで古着にあまり触れてこなかった人にも関心を持っていただけるきっかけになったのではないかと思います」
「衣服をただの着る道具ではなく、一つひとつに新しい物語やテーマをもたらすことができたのは嬉しかったです。一方で、課題だと感じたのは、デザイン性のある服はよく売れたものの、地味なものや無地のものはなかなか手にとってもらえなかったこと。そこは無地の服でも魅力的に見えるようなコーディネートだったり、リメイクをして柄を加えたりと、クリエイティビティを発揮できる部分なのかなと思います」
「イベントを通して、来店したお客さんたち、特に若い人たちのサステナブルに対する関心の高さを感じました。それだけに、このテーマには非常に大きな可能性が秘められているように思います。今回の経験を糧に、持続可能かつ魅力的なファッションのあり方を追求し続けられるような、ファッションビジネスのプロフェッショナルになりたいです」
これからファッションの世界に飛び込む学生たちの心の内には、スタートからサステナブルという“重荷”を背負わされていることに対して、あるいは今より制限がなく、自由にものづくりをしてきた先人たちに対しての複雑な感情もあるはず。それでも課題から逃げることなく前向きに挑もうとする姿はとても印象的で、非常に頼もしく感じられた。
こうした若者たちこそ、まさに「着るの未来」を明るく照らす光。彼たち、彼女たちが存分に活躍できるようなサポート、あるいは場をつくることが、社会や大人たちの最低限の務めなのかもしれない。