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日用品を楽しくみんなで再活用。9月企画「アップサイクル・アニマルズ」現地レポート

日用品を楽しくみんなで再活用。9月企画「アップサイクル・アニマルズ」現地レポート

2024年9月6日から29日まで、大阪・うめきた公園内のPLAT UMEKITAで開催された「アップサイクル・アニマルズ」。PLAT UMEKITAが掲げる、エシカルとエンターテインメントを融合した「エシカルテインメント」自主企画の第一弾となる本展では、「アップサイクル」をテーマに、日用品などの廃材を活用して制作された楽器類、ダンボールでできた動物彫刻などが展示された。

会期中は楽しくアップサイクルを体感できるワークショップも実施。9月21日には、日用品演奏ユニットkajiiさんによるワークショップ&コンサート「日用品で楽器を作って、みんなで演奏しよう!」が行なわれ、約10組の親子連れが楽器づくりを体験。コンサートが始まると公園を散策中の人たちも次々と足を止め、身近なものから奏でられる美しい音色と圧巻のパフォーマンスに酔いしれた。

取材・執筆
榎並紀行(やじろべえ)
撮影
原 祥子
編集
榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(CINRA, Inc.)

動物の彫刻作品や廃棄素材を使った楽器で、楽しくアップサイクルを学ぶ

9月21日、オープンから2週間が経った「うめきた公園」を訪れた。三連休の初日ということもあり、多くの人でにぎわう園内。芝生広場ではピクニックシートを敷いてのんびり過ごすファミリーや、芝の上に寝転がって日光浴をする人の姿が、噴水エリアでは全身ずぶ濡れになってはしゃぐ子どもたちの姿が見られる。

2024年9月6日、都心のターミナル駅直結の公園としては世界最大級となる「うめきた公園」の一部が先行開業した。今回オープンしたのは、広々とした芝生広場や水遊びができる巨大な噴水エリア、美しいフォルムの大屋根が目印の複合施設(撮影:宇津木健司)
2024年9月6日、都心のターミナル駅直結の公園としては世界最大級となる「うめきた公園」の一部が先行開業した。今回オープンしたのは、広々とした芝生広場や水遊びができる巨大な噴水エリア、美しいフォルムの大屋根が目印の複合施設(撮影:宇津木健司)

うめきた公園内のシンボリックな「大屋根」のまんなかに位置するPLAT UMEKITAでは、オープニングを飾る企画展「アップサイクル・アニマルズ」が開催中で、味のある表情のダンボール動物彫刻や、ペットボトルなどの廃棄素材を使った楽器類、手回しコンポストを使った楽しい仕掛けが用意されていた。

多くの人が散策の足を止め、動物を色んな角度から眺めたり、ペットボトルの打楽器を叩いてみたり、コンポストを回して音を鳴らしたり、動物を動かしたり。さまざまな展示を通し、楽しくアップサイクルを体験していた。

会場内にはダンボール彫刻家・本濃研太さんが手がけた、動物の作品を展示
会場内にはダンボール彫刻家・本濃研太さんが手がけた、動物の作品を展示
コンポストのハンドルを回すと、台のなかから動物が飛び出す「コンポストぴょこぴょこ」。ほかにも、コンポストの動力によって動いたり、光ったり、音を奏でる仕掛けが会場内に散りばめられていた
コンポストのハンドルを回すと、台のなかから動物が飛び出す「コンポストぴょこぴょこ」。ほかにも、コンポストの動力によって動いたり、光ったり、音を奏でる仕掛けが会場内に散りばめられていた

場内の楽器を制作したのが、kajiiさん。クマーマさん、創(そう)さんによる「日用品演奏ユニット」で、これまでに170種類以上の日用品楽器を創作。食器やペットボトル、空き缶など、身近なものから生まれる音色を駆使した演奏活動を国内外で行なってきた。

赤いスカーフ&もじゃもじゃ頭のクマーマさんと、緑髪に青いスカーフの創さんによるユニット「kajii」。この日は「日用品で楽器を作って、みんなで演奏しよう!」と題し、楽器づくりのワークショップとコンサートが開催された
赤いスカーフ&もじゃもじゃ頭のクマーマさんと、緑髪に青いスカーフの創さんによるユニット「kajii」。この日は「日用品で楽器を作って、みんなで演奏しよう!」と題し、楽器づくりのワークショップとコンサートが開催された

身近な物を再利用して生まれる不思議な音

はじめに、日用品を楽器に生まれ変わらせるワークショップがスタート。所要時間30分で、今回は不要になった釘やハンガーを使って「釘のリースチャイム」をつくる。

事前予約制のワークショップは、募集後すぐに定員に。この日は約15名のファミリーが参加した
事前予約制のワークショップは、募集後すぐに定員に。この日は約15名のファミリーが参加した

まずはベースとなるリース部分をつくる。ハンガーを丸い形に曲げてから、好きな色のモールを巻きつけていく。「めちゃくちゃ綺麗に丸くしなくても大丈夫です。モールをつけると綺麗に仕上がるので」とクマーマさん。手先の器用さを問わない工作なので、誰でも楽しみながら取り組める。

モールを巻くだけで、きれいなリースに。ハンガーの首の部分もモールで装飾し、ベース部分は完成
モールを巻くだけで、きれいなリースに。ハンガーの首の部分もモールで装飾し、ベース部分は完成
次にチャイム、つまり楽器の部分をつくる。先端を丸めた直径5mmほどの釘を7本、結束バンドでリースに結んでいく。この釘同士がぶつかることで音が出る仕組みだ
次にチャイム、つまり楽器の部分をつくる。先端を丸めた直径5mmほどの釘を7本、結束バンドでリースに結んでいく。この釘同士がぶつかることで音が出る仕組みだ
釘をつけたら、あとは余ったモールなどで自由に飾り付けをして完成
釘をつけたら、あとは余ったモールなどで自由に飾り付けをして完成

できあがったリースチャイムを左右に振ると、きらきらした音が。ただの釘とは思えない繊細で透き通った音色に、子どもたちも驚いた様子。楽しそうに何度も鳴らして遊んでいた。

ワークショップのあとはkajiiさんによるコンサート。食器を使った打楽器の「食琴」をはじめ、マレットでガラスを叩く「ガラス琴」、タライとデッキブラシの弦楽器、フライパンや鍋、ボウル、まな板、タッパーなどのキッチンアイテムを組み合わせたパーカッションセットなど、見たことのある道具ばかりを使った、見たこともない楽器たち。どんな音が鳴るのか、子どもたちも興味津々の様子だ。

大きさや形状の異なる食器類を使った打楽器「食琴」
大きさや形状の異なる食器類を使った打楽器「食琴」
叩いて音が出るフライパンや鍋、振って音が出る塩胡椒シェイカー、こすって音が出る粒つきしゃもじなど、あらゆるキッチン用品を集めたパーカッションセット「ヒミツキッチン」
叩いて音が出るフライパンや鍋、振って音が出る塩胡椒シェイカー、こすって音が出る粒つきしゃもじなど、あらゆるキッチン用品を集めたパーカッションセット「ヒミツキッチン」
コンサート前には演奏しながら公園内を回るデモンストレーションで、お客さんを呼び込む
コンサート前には演奏しながら公園内を回るデモンストレーションで、お客さんを呼び込む
まずはkajiiさんの代名詞である「食琴」のパフォーマンスから。小気味よく食器を叩いて曲を奏でる
まずはkajiiさんの代名詞である「食琴」のパフォーマンスから。小気味よく食器を叩いて曲を奏でる

一見、無造作に置かれたように見える大小さまざまな茶碗やどんぶり、湯呑み。29の食器の数だけ別々の音階があり、大体の曲を演奏できるという。コンサートが始まると、場内からは「おおー」という歓声が。リズムよく、踊るように食器を叩く独特の演奏スタイル。躍動感があり、見た目にも楽しいパフォーマンスだ。

いつも家で使っているものから、なぜこんなに多彩な音が鳴るのか。子どもたちの視線を一瞬で釘付けに
いつも家で使っているものから、なぜこんなに多彩な音が鳴るのか。子どもたちの視線を一瞬で釘付けに
途中、頭にバケツをかぶってのパフォーマンスで盛り上げる。目隠しをしても正確に音を出せるのは、日頃の練習の賜物
途中、頭にバケツをかぶってのパフォーマンスで盛り上げる。目隠しをしても正確に音を出せるのは、日頃の練習の賜物
タライとデッキブラシを使った弦楽器。ボン・ボンというベースのような音が鳴る
タライとデッキブラシを使った弦楽器。ボン・ボンというベースのような音が鳴る

コンサート中盤には、企画展のテーマである「アップサイクル」にちなみ、ペットボトルに少しだけ手を加えた手軽な楽器の紹介も。

クマーマさん「今回のイベントの大きなテーマがアップサイクル。アップサイクルというのは、もともとあった物を、さらに良い何かにつくり変えること。そこで、今日はみんなが家で簡単に試せるアップサイクル楽器の素材を紹介します。どの家庭にもある、普通のペットボトルです」。

ペットボトルの底を切って、キャップの部分を叩くといい音がする。筒の長さを変えると、音程も変えられるという
ペットボトルの底を切って、キャップの部分を叩くといい音がする。筒の長さを変えると、音程も変えられるという
会場内にはさまざまな長さのペットボトルを使った「ペットフォン」も展示
会場内にはさまざまな長さのペットボトルを使った「ペットフォン」も展示

最後はワークショップでつくった釘のリースチャイムを使っての合奏。クマーマさんの「食琴」、創さんの「ヒミツキッチン」の演奏に、子どもたちのリースチャイムの「きらきら」が重なり、一つになった音が場内に響き渡る。

kajiiさんの合図に合わせてリースチャイムを振る子どもたち
kajiiさんの合図に合わせてリースチャイムを振る子どもたち
最後まで全力パフォーマンスのクマーマさんと創さん
最後まで全力パフォーマンスのクマーマさんと創さん
60分が短く感じられるような圧巻のショータイム。通りすがりに足を止めて演奏に聴き入る人も多く、何度も拍手が起こっていた
60分が短く感じられるような圧巻のショータイム。通りすがりに足を止めて演奏に聴き入る人も多く、何度も拍手が起こっていた

楽しさと驚きが連続するkajiiさんのパフォーマンス。ワークショップから参加したファミリーに感想を聞くと「聴くだけじゃなく、こちらも参加できるインタラクティブな形式のコンサートだったので、より楽しめました。アップサイクルについては、自分でどこまでやれるかはわからないけど、子どもにそういう考え方や取り組みがあることを知ってもらう、とても良いきっかけになったと思います。近くに住んでいるので、今後も楽しそうなイベントがあったらぜひ参加したいです」と話してくれた。

目的はあくまで、楽器づくりやコンサートを楽しむこと。そのなかで、アップサイクルなどエシカルの知識を少しだけでも持ち帰る。そんな、エシカルテインメントの理念を体現してくれたkajiiさん。終演後、お二人にも感想をうかがった。

クマーマ

こうしたオープンな空間で行なうコンサートって、お客さんの集中力がなかなか持続しないこともあって、普段は時間を30分に設定することが多いんです。今回はワークショップも含めて90分の長丁場ということで、やる前は正直ちょっと不安でした(笑)。でも、最後までみなさんすごく盛り上がってくれて嬉しかったです。大阪のお客さんならではのノリの良さだけでなく、この公園全体に漂うハッピーな雰囲気にも助けられた気がします。

ワークショップから参加してくれた人以外にも、公園に遊びに来て、たまたまここを通りかかった人たちが足を止めてくれて、最終的にはすごい人数になっていましたよね。ストリートパフォーマンスのようなライブ感もあって、これも公園ならではの良さなのかなと思いました。またぜひ、ここでワークショップやコンサートをやりたいです。

アンコールでは、運動会の定番曲「道化師のギャロップ」を超高速で披露。その超絶テクニックに、最後まで歓声が湧いていた
アンコールでは、運動会の定番曲「道化師のギャロップ」を超高速で披露。その超絶テクニックに、最後まで歓声が湧いていた

参加者が楽しみながら1か月攪拌したコンポスターでできた堆肥は、ローズマリーとコーヒーの木の植木鉢になって現在も展示されている。スタッフが大事に育てていくとのこと。

PLAT UMEKITAではこれからもアーティストやクリエイターの力を借りながら、また、公園ならではの利点を生かしながら、さまざまなエシカルテインメントを届けていく。

会期中に来場したこどもたちがつくった堆肥を鉢に移し、土を整えている様子
会期中に来場したこどもたちがつくった堆肥を鉢に移し、土を整えている様子
kajii(かじー)

kajii(かじー)

クマーマと創(そう)のユニット。「音楽と楽器をもっと身近に」という願いから、 170種類以上の日用品楽器を創り出し音楽を奏でる。日用品から飛び出す音楽が絶賛され、多数のテレビ番組に出演。
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