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都市公園の“新たな遊び方”を考える。実験イベント「PLAT PICNIC LAB.2025」は大盛況だった

都市公園の“新たな遊び方”を考える。実験イベント「PLAT PICNIC LAB.2025」は大盛況だった

公園はもっと楽しい場所にできるはず。大阪の一等地にある都市公園だからこそ、できることもあるはず。

そんな思いから、公園の新たな可能性を探るべく5月にPLAT UMEKITAが企画した「PLAT PICNIC LAB.2025」。うめきた公園を舞台に、さまざまな実験を通して新しい公園の遊び方を模索した。約2週間のイベントのなかで、特に盛況だったゴールデンウィーク初日、5月3日と4日の様子をレポートする。

取材・執筆
榎並紀行(やじろべえ)
撮影
上村窓
編集
榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(CINRA, Inc.)

PLAT UMEKITAが提案する「あたらしい公園の遊び方」って?

ゴールデンウィーク真っ只中の、大阪・うめきた公園。芝生広場でくつろぐファミリーやカップル、水辺で遊ぶ子ども。いつもの風景のなかに、この日はいつもとは違う“風変わりな遊び”を楽しむ人たちの姿があった。

あやとりと糸電話を組み合わせた「あやとりフォン」
あやとりと糸電話を組み合わせた「あやとりフォン」
自分でつくった昆虫を公園で撮影し標本をつくる「もしもむし」。
自分でつくった昆虫を公園で撮影し標本をつくる「もしもむし」。

何をやっているのかはよくわからない。でも、なんだか楽しそうだ。

心臓の動きを感じながらピクニックをする「心臓ピクニック」。
心臓の動きを感じながらピクニックをする「心臓ピクニック」。

これらは、都市公園の「新しいあそび方」を探求するPLAT UMEKITAが仕掛けたもの。「PLAT PICNIC LAB.2025」と題し、“公園でのピクニックをより楽しくするための実験”が2日にわたって行われた。

うめきた公園は、大阪駅に近接する世界最大級の都市公園。この日はゴールデンウィーク初日とあって、園内では多くのイベントも開催されていた。
うめきた公園は、大阪駅に近接する世界最大級の都市公園。この日はゴールデンウィーク初日とあって、園内では多くのイベントも開催されていた。

どこまでもつながる糸電話。公園の音を録音した曲づくり

今回企画された「あたらしい遊び」はPLAT UMEKITA企画編集室(TOPPAN株式会社)と、クリエイター、アーティストなどのパートナーが考案したもの。

たとえば、「あやとりフォン(モジュール型糸電話)」は、パーソナルモビリティなどの工業製品を手掛けるデザインカンパニー「GK Dynamics」とPLAT UMEKITAが共同で開発。糸電話の糸を結合部品によって多方向に張り巡らし、あやとりのように色んな形をつくるというもの。参加者が増えればまた新しい糸をつないで、コミュニケーションの輪を拡張していくことができる。

糸をつなげばつなぐほど、多くの人とコミュニケーションがとれる。
糸をつなげばつなぐほど、多くの人とコミュニケーションがとれる。
通常の糸電話のような1対1の対話ではなく、多方向からの雑談を楽しめるのがあやとりフォンの特徴。あるいは、人の会話をこっそり盗み聞くようなドキドキ感も味わうことができる。
通常の糸電話のような1対1の対話ではなく、多方向からの雑談を楽しめるのがあやとりフォンの特徴。あるいは、人の会話をこっそり盗み聞くようなドキドキ感も味わうことができる。

もの珍しさから人が集まり、その人たちがまた新しい糸を連結させていく。そうやって公園を行き交う不特定多数の人たちがつながっていくのが狙いだ。

「こうして新しい公園ができたのだから、新しいコミュニケーションを見せたいよね、と。そんな思いがあって、公園を訪れる人がどんどんつながっていくような遊び道具を考案しました。実際、僕らがデモンストレーションでやってみせると、みんなが近寄って糸をつなげてくれて。参加する人の数だけ、まさにあやとりのように形が変わっていくのもおもしろかったですね」(あやとりフォンを手がけたGK Dynamics)

ナイロン糸、ビニール紐など、糸電話に使う糸の種類も色々。バネ製の糸は少しエコーがかって聴こえたりと、素材による音の違いも楽しい。
ナイロン糸、ビニール紐など、糸電話に使う糸の種類も色々。バネ製の糸は少しエコーがかって聴こえたりと、素材による音の違いも楽しい。
あやとりフォンで「けんけんぱ」をする子どもも。趣旨と違うが楽しそうだ。
あやとりフォンで「けんけんぱ」をする子どもも。趣旨と違うが楽しそうだ。

また、音楽プロデューサーのkafukaさん、音楽家のMasahiko Takedaさん、Metomeさん協力のもと行われたのが、「ねるまえの音さがし」。公園内を散策して気になった音を録音し、その音素材を編集して音楽に仕立てるサウンドワークショップだ。

参加者は公園内を自由に歩き、さまざまな音を録音する。
参加者は公園内を自由に歩き、さまざまな音を録音する。
園内にあるものは何でも音源になる。豪快に柵を揺らして音を出す子も。
園内にあるものは何でも音源になる。豪快に柵を揺らして音を出す子も。

風の音、木の葉が揺れる音、水辺の音、鳥や虫の鳴き声、雑踏、人々のざわめき。

なるほど確かに、公園にはたくさんの音があふれている。意識して感じようとすると、これまでは聴き流してきたような音ですら魅力的に聴こえるから不思議だ。

夢中で音を探す参加者を見守るkafukaさん。「自分がつくった音楽を聴くと、なぜか眠くなってしまう」というkafukaさんの実体験が企画の起点になっている。
夢中で音を探す参加者を見守るkafukaさん。「自分がつくった音楽を聴くと、なぜか眠くなってしまう」というkafukaさんの実体験が企画の起点になっている。
kafukaさんたちが事前に用意したバックトラックに合わせ、録音した素材を編集。エフェクトなどを加えて、オリジナルの“ねるまえの音”を完成させる。
kafukaさんたちが事前に用意したバックトラックに合わせ、録音した素材を編集。エフェクトなどを加えて、オリジナルの“ねるまえの音”を完成させる。

最後は完成した音楽を、公園の芝生の上で寝転びながら聴いてみる。自分のためにチューニングした眠りの音と、芝生のにおい、初夏のやわらかい風。参加者たちは音探しで歩き回った疲れを癒すように、気持ちよさそうにまどろんでいた。

虫を観察し、進化させ、次世代につなぐ「もしもむし」

この日、一番人気だったプロダクトが「もしもむし」。

案内パネルには、都市公園を舞台に行われる“継承型のNEO昆虫標本づくり”と書かれている。

つまり、こういうことだ。

樹脂のパーツを組み合わせてつくった数種類の「虫」のなかから、好きなものを選ぶ。
樹脂のパーツを組み合わせてつくった数種類の「虫」のなかから、好きなものを選ぶ。
虫にはそれぞれ「虫カード」がついていて、「ノーマルマイルドコオロギ」などの名前や、「じゃり」「しばふ」などの生息地、「よくわらう」などの特性、「カラフルになりたい」といった欲求が書かれている。
虫にはそれぞれ「虫カード」がついていて、「ノーマルマイルドコオロギ」などの名前や、「じゃり」「しばふ」などの生息地、「よくわらう」などの特性、「カラフルになりたい」といった欲求が書かれている。
その特性や欲求をふまえ、自分なりに一部のパーツを組み替えて新たな虫を創造する。
その特性や欲求をふまえ、自分なりに一部のパーツを組み替えて新たな虫を創造する。
つくった虫を公園内の好きな場所に置いて撮影する。
つくった虫を公園内の好きな場所に置いて撮影する。
撮影した虫の写真をAIが解析し、新しい名前や特性、欲求を持った虫へと「進化」する。進化させた虫カードは記念に持ち帰れる。
撮影した虫の写真をAIが解析し、新しい名前や特性、欲求を持った虫へと「進化」する。進化させた虫カードは記念に持ち帰れる。
進化した虫をベースに、また別の参加者が新しい虫を創造する(以後、繰り返し)。
進化した虫をベースに、また別の参加者が新しい虫を創造する(以後、繰り返し)。

「もしもむしを通じて、つくることの楽しさ、進化することの面白さが、うめきた公園のなかで連鎖していってほしい。そんな思いを込めて、この遊びを設計しました」とは、もしもむしを手がけたデザインスタジオの「83Design」。

虫を観察して、進化させ、次の世代へつないでいく。もしもむしの進化を通じて、公園を訪れた見ず知らずの人同士の頭の中がつながっていくのが面白い。

自分の「心臓の音」を感じながらピクニック

芝生広場に目を向けると、複数のグループで大きく円を描くようにレジャーシートを広げ、ピクニックをする集団が。

ただ、よく見ると普通のピクニックではないようだ。

胸に聴診器のようなものを当て、なにやら白い箱を触っている。
胸に聴診器のようなものを当て、なにやら白い箱を触っている。

こちらは、アートサイエンス学科教授安藤英由樹教授らが考案した「心臓ピクニック」。自分の心臓の音(鼓動)を聴診器でひろい、それを手のひらで感じられる装置「ハートビートボックス」を使ってピクニックをしようという試みだ。

参加者に配られたのは、ピクニックではあまり見かけないデバイス類。
参加者に配られたのは、ピクニックではあまり見かけないデバイス類。
心音と同じリズムで振動するハートビートボックス。自分の鼓動を聴いてさわって、リアルに感じることができる。
心音と同じリズムで振動するハートビートボックス。自分の鼓動を聴いてさわって、リアルに感じることができる。

聴診器を当てると、ブルブルと震え出すハートビートボックス。まさに、心臓を手で触っているかのよう。

若干おそろしい気もするが、「自分が生きている」ことをリアルに実感できる。この体験をとおし、命の大切さに目を向けてもらいたいという意図もあるようだ。

「みなさん、普段は心臓のことなんてあまり気にしていないかもしれません。でも、じつは心臓って1日10万回くらい動いていて、1時間でお風呂がいっぱいになるくらいの血液を体中に運んでいる。今日は心臓ピクニックを通じて、そんな心臓の頑張りに少しでも興味関心を持ってもらえたらと思います」(ハートビートボックスを考案した1人、大阪芸術大学アートサイエンス学科の安藤英由樹教授)

安藤教授とアートサイエンス学科の学生も参加。
安藤教授とアートサイエンス学科の学生も参加。

自分の鼓動をひとしきり感じたら、次は家族や友人と「心臓」を交換し、相手の鼓動に触れてみる。あるいは、体を動かしたり、飲み食いをしたり、身体活動による心臓の動きの変化を実感してみる。

公園で鬼ごっこをしたあとにお茶を飲み休憩すると、激しい鼓動が徐々に収まっていく。
公園で鬼ごっこをしたあとにお茶を飲み休憩すると、激しい鼓動が徐々に収まっていく。
パパの心臓をにぎりしめることもなかなかないだろう。お互いの心臓に触れ合うことで、親子の絆が深まったりもするのかもしれない。
パパの心臓をにぎりしめることもなかなかないだろう。お互いの心臓に触れ合うことで、親子の絆が深まったりもするのかもしれない。

走ったり、側転をしたり、隣の人をワッと驚かせてみたり。アクションによって変わるハートビートボックスの変化が面白くて、色んな動きや遊びを試してみたくなる。心臓の音というエッセンスが加わることで、ピクニックの楽しみ方自体も広がっているような気がした。

このほか、PLAT UMEKITA内にはピクニックグッズブランド「Tiny Garden Products」の展示コーナーも。海のごみを再利用してつくったフリスビー、倒しても割れない樹脂製のパークグラスなど、公園で過ごす時間をより心地よくするアイテムが提案されていた。
このほか、PLAT UMEKITA内にはピクニックグッズブランド「Tiny Garden Products」の展示コーナーも。海のごみを再利用してつくったフリスビー、倒しても割れない樹脂製のパークグラスなど、公園で過ごす時間をより心地よくするアイテムが提案されていた。

実験を重ね、公園の遊び方や楽しさを探究し続ける

約2週間にわたり、新しい公園の遊び方を模索した「PLAT PICNIC LAB.2025」。

「もしもむし」や「ねるまえの音さがし」のようなデジタルとフィジカルを融合させた遊びができるのは、PLAT UMEKITAのラボと公園が隣接しているこの場所ならでは。そして、「あやとりフォン」のように不特定多数の人が遊びを通じてすぐにつながれるのも、多くの人がふらっと立ち寄れる都市公園だからこそ。今回の実験はどれも、うめきた公園とPLAT UMEKITAのポテンシャルがうまく発揮されたものになっていた。

「PLAT PICNIC LAB.」は、これからも毎年5月に開催していく予定。今回の実験をもとにさらにブラッシュアップされた遊びや、さらに驚くような新たな提案を期待したい。

「PLAT PICNIC LAB.」のメンバーたち。
「PLAT PICNIC LAB.」のメンバーたち。
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