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「できない」ではなく「できる」を増やしたい。PLAT UMEKITAが目指す未来の都市公園

「できない」ではなく「できる」を増やしたい。PLAT UMEKITAが目指す未来の都市公園

2024年9月、グラングリーン大阪内に開園する「うめきた公園」。JR大阪駅に隣接する巨大な都市公園で、地域住民だけでなく国内外のさまざまな人が憩い、交流する場として期待が高まっています。

 

また、公園内には「未来のあそび場」を掲げる体験型共創拠点「PLAT UMEKITA」もオープン。「INFO(情報発信ゾーン)」「GALLERY(多目的ゾーン)」「IDEA LAB.(自主企画ゾーン)」の3つからなり、うめきた公園・グラングリーン大阪の情報発信のほか、エシカルとエンターテインメントをかけ合わせた「エシカルテインメント」をテーマに、イベント開催も予定しています。

 

PLAT UMEKITAは、公園の可能性をいかに広げ、地域や社会にどんな価値をもたらすのでしょうか? 事業のコアメンバーである、三菱地所・内田健弥(うちだ・けんや)と、TOPPAN・折尾大輔(おりお・だいすけ)と松居秀和(まつい・ひでかず)の3名に話を聞きました。

取材・執筆
榎並紀行(やじろべえ)
撮影
上村窓
編集
服部桃子(CINRA, Inc.)

公園は、人生の思い出が集まる場所

――現在、JR大阪駅に直結する場所に新しい都市公園「うめきた公園」が整備されています。はじめに、みなさんの「公園にまつわる思い出」を聞かせてください。

内田

子ども時代の公園といえば「みんなが集まる場所」。小学生の頃は放課後になると近所の公園にとりあえず集合して、キックベースや鬼ごっこ、カードゲームで日が暮れるまで遊んでいました。あと、ノストラダムスの大予言で1999年に人類が滅亡するという都市伝説が広まった際は、サッカー教室の後に友達と公園に集まり、避難用の防空壕を掘ったのを覚えています(笑)。

内田健弥(うちだ・けんや)。三菱地所株式会社 関西支店 グラングリーン大阪室 主事。うめきた2期地区開発事業「グラングリーン大阪」のエリアマネジメント・ブランディングおよび本施設含めた各種企画を担当
内田健弥(うちだ・けんや)。三菱地所株式会社 関西支店 グラングリーン大阪室 主事。うめきた2期地区開発事業「グラングリーン大阪」のエリアマネジメント・ブランディングおよび本施設含めた各種企画を担当

折尾

僕も学校終わりはほぼ公園にいました。僕らの世代はゲームボーイ。別に公園に来る必要はないんだけど、なんとなく集まってやっていましたね。

折尾大輔(おりお・だいすけ)。TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 ビジネストランスフォーメーションセンター エクスペリエンスデザイン本部に所属PLAT UMEKITAのクリエイティブ・ディレクターを担当
折尾大輔(おりお・だいすけ)。TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 ビジネストランスフォーメーションセンター エクスペリエンスデザイン本部に所属PLAT UMEKITAのクリエイティブ・ディレクターを担当

松居

30代半ばの内田さんは、昭和世代の僕や折尾よりかなり若いですが、それでも友達と集まる場所といえば公園だったんですね。僕自身も、遊ぶ場所の一番手は公園。単なる遊び場ではなく、そこにはコミュニティがあって、派閥が生まれたりもして、最初に社会を学ぶ場所だった気がしますね。

松居秀和(まつい・ひでかず)。TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 ビジネストランスフォーメーションセンター エクスペリエンスデザイン本部に所属。PLAT UMEKITAの事業計画、プロジェクトマネジメントを担当
松居秀和(まつい・ひでかず)。TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 ビジネストランスフォーメーションセンター エクスペリエンスデザイン本部に所属。PLAT UMEKITAの事業計画、プロジェクトマネジメントを担当

折尾

あったな〜派閥争い。自分たちが遊んでいるときに違うグループがやってくると、一気に緊張感が走る。そこでナワバリ争いが起こったり(笑)。まさに公園は「小さな社会」で、色んなことを学びましたよね。そんなことも含めて、公園には色んな思い出があります。

内田

そう、公園って思い出が蓄積する場所なんですよね。僕にとっては小学生の頃だけじゃなく、人生におけるさまざまシーンのなかに公園の風景があります。

たとえば、僕は中学から大学までは陸上をやっていたのですが、大会が行なわれる競技場はだいたい公園の敷地内にあるんですよね。レース前のウォーミングアップで公園をジョギングしたり、結果が出なくてベンチで悔しがったり、仲間と一緒に喜んだり。色んな思い出が折り重なる場所です。

――そのなかでも特に思い出深い公園はありますか?

内田

大阪にある長居公園は、僕にとっての聖地です。公園内には複数の陸上競技場があり、大会のグレードに合わせて競技場の大きさも変わります。

最も大きなスタジアムは世界陸上などの国際大会でも使われて、僕ら学生がそこを走れるチャンスは年に1度あるかないか。僕も憧れのトラックを走るために頑張って、何度か目標を叶えることができました。あれから十数年が経ったいまでも、たまに長居公園に立ち寄りそこで練習や試合をしている学生を見ると、自分の青春時代の記憶が蘇ってきますね。

背後には工事中のグラングリーン大阪が広がる
背後には工事中のグラングリーン大阪が広がる

禁止事項ばかりではなく「一緒に公園をつくっていく」

――松居さん、折尾さんのお住まいのすぐそばにも、公園があるそうですね。

松居

僕の場合は生まれ育った実家の目の前が公園で、子供の頃から公園や自然のある環境に親しみがありました。それから40年以上が過ぎたいまでも、公園の真横に住んでいるという「公園大好き人間」です(笑)。桜や新緑など、家のカーテンを開ければすぐに季節ごとの自然を感じられる環境は、やはり落ち着きますね。

折尾

僕は東京の上野恩賜公園まで歩いて1分の場所に住んでいます。上野公園は美術館や博物館などの文化施設が充実していて魅力的な都市公園ですが、なんといっても楽しいのは、毎週イベントが行なわれていること。何気なく散歩に行くと何かしらやっていて、ちょっと覗いてみるとそこから新しい体験が生まれ、自分の世界が広がったりする。大げさではなく、僕の人生に欠かせない場所ですね。

また、公園が近くにあることは心の安定にもつながっていますし、自分が暮らす街にこんなに素晴らしい場所があることにちょっとした誇りも感じています。

内田

たしかに公園って、シビックプライドを象徴する場所ですよね。ニューヨークのセントラルパークなんて、まさにそう。あそこはシビックプライドの象徴であり、「ここをみんなでより良い場所にしよう」というパブリックマインドが根付いている。

以前、ニューヨーク市の公園局で働く職員の方にお話をうかがいましたが、向こうでは市民が公園を整備するお金を寄付したり、みんなを喜ばせるためのコンテンツを提供したりして、主体的に自分たちの居場所を向上させていこうというメンタリティーがあるそうです。

 

一方で、最近の日本の公園では禁止事項が増えているなどネガティブな部分がクローズアップされがちです。でも、日本もそうやってみんなで盛り上げていく方向に向かえるといいのかなと思います。

松居

おっしゃるとおりですね。最近の公園の看板には禁止事項ばかり書かれているけど、逆に、たくさんの「できること」も書いていくといいんじゃないかと思うし、それこそ公園を使う人と「できること」を一緒につくっていくのもいい。そういうマインドでつくりあげる場所であれば、それこそみんなで守っていこう、盛り上げていこうという好循環も生まれるはずですから。

「楽しい」を持ち帰ることで、エシカルの輪が広がる

――うめきた公園も、地域の人々にとっての大切な場所になってほしいですよね。

内田

地域のみなさんはもちろん、大都市のターミナル駅直結ということもあり、国内外からさまざまな方が訪れる場所になるでしょう。このうめきた公園に来れば、誰もがなんとなく前向きになれる。落ち込んでいるときでも、ここを散歩しているだけで気が晴れる。明日を生きるヒントやパワーをもらえる。多くの人にとって、そんな存在になってほしいですね。

うめきた公園のジオラマ。銀色の模型はPLAT UMEKITA
うめきた公園のジオラマ。銀色の模型はPLAT UMEKITA

――ポジティブなマインドを醸成するための、仕掛けのようなことは考えていますか?

内田

そうですね。もちろん、緑あふれる空間を歩いたり、水辺で遊ぶ子どもの姿をぼんやり眺めたりするだけでも、癒され前向きな気持ちになれると思います。ただ、それだけではなく、毎日の活力につながるようなイベントもどんどん実施していく予定です。そんな場のひとつになるのが、うめきた公園のまんなかにある体験型共創拠点「PLAT UMEKITA」です。

――PLAT UMEKITAは「未来のあそび場」を打ち出しています。どのような場所になるのでしょうか?

松居

PLAT UMEKITAには「INFO(情報発信ゾーン)」「GALLERY(多目的ゾーン)」「IDEA LAB.(自主企画ゾーン)」という3つの機能があります。1つ目の「INFO」は、うめきた公園などの魅力を映像コンテンツで発信したり、より散歩を楽しむための情報を案内したりするゾーン。公園で遊ぶためのアイテムの貸し出しなども行なう予定です。

 

2つ目の「GALLERY」は、企業がイベントなどで利用できる貸しスペース。ほかのイベント会場にない大きな特徴は、やはり目の前が公園ということ。たとえば、ワークショップでつくったものを使って目の前の芝生広場ですぐに遊ぶことができます。こうした、公園隣接のギャラリーならではのメリットを活かしたプログラムを展開していきたいと考えています。

 

3つ目は「IDEA LAB.」。先ほど内田さんがおっしゃった「毎日の活力につながるようなイベント」の拠点になるのがここです。私たちTOPPANとカルチャーメディアで有名なCINRAさん、サステナブルの分野に強いハーチさん、事業構想大学院大学さんの4者で「うめきた企画編集室」をつくり、さまざまなイベントやワークショップなどのコンテンツを展開していく予定です。

PLAT UMEKITAの3つの機能
PLAT UMEKITAの3つの機能

――具体的に、どのようなイベントを計画していますか?

折尾

私たちは「エシカルテインメント」と呼んでいるのですが、ETHICAL(倫理的な)とENTERTAINMENT(娯楽)をかけ合わせた、体験型のイベントを構想しています。

 

たとえば今年の秋のオープニングでは、「アップサイクル」をテーマに、ダンボールや生活に身近な廃材を使って動物の彫刻や楽器つくるアーティストを招いて企画展を実施します。期間中は、参加型で、廃材で作品をつくってみたりするイベントやワークショップも予定しています。

 

これらを通じて、私たちから一方的に何かを提示するのではなく、体験をとおして楽しんでもらう、そして、各々の家庭に何かを持ち帰り、家族や友人に話すことでエシカルの輪が広がっていく。そのきっかけになるようなことをやっていきたいと考えています。公園って、そうしたポジティブな連鎖を生み出す機能も備えている場所だと思いますので。

松居

先ほど内田さんが「うめきた公園」を、誰もがなんとなく前向きになれる場所にしたいとおっしゃっていましたが、PLAT UMEKITAのイベントを通じて新しい気づきを得たり、社会貢献に対する気持ちが芽生えたりするのも、すごく前向きなことですよね。

ただ、エシカルやサステナブルみたいな話って少しとっつきにくくて、日常生活に落とし込むハードルが高いと感じている方も多いと思います。だからこそイベントなど、誰もが楽しめて受け入れられやすいかたちで紹介する。そうすることで、日常的に公園に来ていただくきっかけにもなる。そんな、新しい公園のあり方をイメージしています。

「なんとなく良いことした」が、未来づくりの第一歩

――あらためて、このPLAT UMEKITAをどんな場所にしていきたいか、ここを起点に、どんな未来をつくっていきたいか教えてください。

折尾

一番は、誰もが気軽に参加できる場所にしていきたいです。PLAT UMEKITAは公園という開かれた場所にありますし、多くの企業や大学、プレーヤーが集まりやすい都心部に位置しています。この利点を活かし、色んな人にどんどん関わってほしい。色んな人が関わることで常に変化し続けるプラットフォームになるといいですね。そのときどきの課題に合わせ、みんなで未来について考える。そんな場所になっていくと、すごく面白いんじゃないかと思います。

松居

最初の構想のときからずっと変わらないのは「公園を楽しむ」という軸です。日常的に公園を楽しむうちに、少しずつ生活が豊かなものに変わっていく。PLAT UMEKITAが、そのためのちょっとしたお手伝いができればいいなと思っています。また、私たちの取り組みがうまくいけば、ほかの大都市でも「公園を中心にしたまちづくり」が活性化するかもしれません。そうなったら公園好きとしては嬉しいし、ワクワクしますね。

内田

最終的にはもちろん、地球や社会全体のことを考える人が増えたら素晴らしいと思いますが、最初はそこまで高い視座ではなく、ここで何かを体験することで「なんとなく良いことしたな」というくらいの気持ちになってもらいたい。

 

PLAT UMEKITAは公園の入口に最も近い場所にあり、建物はガラス張りで公園のどこからでも何かをやっていることがわかります。ぜひ「ぷらっと」立ち寄ってほしいですね。そして、そこで何かしらを感じて、より良い未来をつくる一歩を踏み出すきっかけにしてもらえたら、とても嬉しく思います。

建設中(2024年5月時点)のPLAT UMEKITAにて
建設中(2024年5月時点)のPLAT UMEKITAにて
内田健弥(うちだ・けんや)

内田健弥(うちだ・けんや)

三菱地所株式会社 関西支店 グラングリーン大阪室 主事
2012年三菱地所入社。商業施設の企画・店舗営業の後、TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)開発企画に従事。その後、内閣府への出向を経て現職。うめきた2期地区開発事業「グラングリーン大阪」のエリアマネジメント・ブランディングおよび本施設含めた各種企画を担当。まちづくりが好き。
折尾大輔(おりお・だいすけ)

折尾大輔(おりお・だいすけ)

TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 ビジネストランスフォーメーションセンター エクスペリエンスデザイン本部OMOマーケティング部
2006年凸版印刷入社。事業やサービスのブランディングを担当し、グッドデザイン賞をはじめグラフィックや空間デザインの各種アワードを受賞。クリエイティブ部門に所属後、官公庁の海外販路開拓事業プロデュース等を経て、現在は場のデザインのプロデューサーとして空間の企画・ブランディング・デザイン・運営業務等に従事。風景写真を撮るのが好き。
松居秀和(まつい・ひでかず)

松居秀和(まつい・ひでかず)

TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 ビジネストランスフォーメーションセンター エクスペリエンスデザイン本部 OMOマーケティング部
1999年凸版印刷(現・TOPPAN)入社。企業・自治体の各種イベントのディレクションに従事。自動車メーカーの宣伝部門への出向の後、TOPPANの展開する共創・発信スペース「NIPPON GALLERY」のコンセプトメイクから立ち上げを行なう。以降、企業のショールームやミュージアムの計画立案・ディレクションを担当。情報発信施設「PLAT UMEKITA」プロジェクトマネージャー。公園好き。
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