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日々の「食べる」が、未来を変える。PLAT UMEKITAで見つめ直す、食のこれから

日々の「食べる」が、未来を変える。PLAT UMEKITAで見つめ直す、食のこれから

「食べる」という日々の行動が、未来を変える力を持っているとしたら──。そんな「食」の本質を見つめ直す企画展が、2025年1月から4か月にわたり、大阪・うめきた公園内のPLAT UMEKITAで開催された。

 

本レポートでは、映画とスペシャルディナーを通じて食について考えるイベント「Food Studies vol.1」と、食の学びのプログラム「おいしいの編集者たち」の最終回の様子を中心に振り返る。

Food Studies vol.1執筆
野村蘭(Harch Inc.)
撮影
TALKS cafe&bar
「おいしい」の編集者たち執筆・撮影
大石竜平(Harch Inc.)
編集
Harch Inc.

「食べることは生きること」―映画とディナーで考える“やさしい未来”

4月26日(土)、PLAT UMEKITAと隣接するTALKS cafe & barで、映画とディナーを通じて食の本質を考えるイベント「Food Studies vol.1 あなたの“食べる”が、やさしい未来につながる。アリス・ウォータースの映画とレシピで学ぶ Farm to Table」が開催された。

今回PLAT UMEKITAで上映されたのは、「食べることは生きること〜アリス・ウォータースのおいしい革命〜」。アリス・ウォータースはアメリカのシェフで、「地産地消」の考え方を広めてきた。地元の食材を選ぶことで、地元の生産者を支え、輸送による環境負荷を減らし、新鮮な食材を手に入れることができると語る。

映画では、「食べ方を変えることで、社会も変わる」そんなメッセージが丁寧に綴られ、持続可能な食のあり方や、食をめぐる多様な可能性について考えさせられる内容となっていた。
映画では、「食べ方を変えることで、社会も変わる」そんなメッセージが丁寧に綴られ、持続可能な食のあり方や、食をめぐる多様な可能性について考えさせられる内容となっていた。
アリス・ウォータースの心に響く言葉が会場を包んだ。
アリス・ウォータースの心に響く言葉が会場を包んだ。

オーガニック、ヴィーガン、グルテンフリーなど、食の選択肢は多様化している。その一方で、何を選べばいいのかと迷ってしまうことも多い。

そうしたときに立ち戻りたいのが、アリス・ウォータースの食に対する哲学である。アリス・ウォータースが大切にしてきたのは「誰が、どこで、どのように作ったのか」を知ること、そして、地元で採れた旬のものを感謝の気持ちを込めていただくという、実にシンプルなもの。アリス・ウォータースの考え方には食の本質を取り戻すヒントが詰まっている。

上映後には、感想を共有するクロストークが行われた。登壇者は、TALKS cafe & barを運営する株式会社エルワールド代表取締役・髙橋香織さん(右)と、PLAT UMEKITA企画編集室ディレクター・TOPPAN株式会社の木村和也(左)。
上映後には、感想を共有するクロストークが行われた。登壇者は、TALKS cafe & barを運営する株式会社エルワールド代表取締役・髙橋香織さん(右)と、PLAT UMEKITA企画編集室ディレクター・TOPPAN株式会社の木村和也(左)。
参加者からも感想が寄せられ、「食についてあらためて考え直すきっかけになった」「地域のものをいただくということを意識していこうと思った」といった声が聞かれた。
参加者からも感想が寄せられ、「食についてあらためて考え直すきっかけになった」「地域のものをいただくということを意識していこうと思った」といった声が聞かれた。

映画の続きをTALKS cafe & barで

映画の後、会場をTALKS cafe & barに移し、アリス・ウォータースのレシピにインスピレーションを受けた特別コース「春の恵みを味わう ナチュラルコース」を楽しんだ。

「Farm to Table」がコンセプトのTALKS cafe & barが考案したコースには、春野菜や海の幸、自然に育てられた鶏など、地産地消を大切にした季節の恵みをたっぷり使った料理が並んだ。映画で感じたことが自然とつながり、スクリーンの続きを味わうようなひとときとなった。

1品目は、季節野菜と帆立のファーマーズマーケットサラダ。素材本来の味わいを大切にした、アリス・ウォータースの哲学が感じられる一皿。
1品目は、季節野菜と帆立のファーマーズマーケットサラダ。素材本来の味わいを大切にした、アリス・ウォータースの哲学が感じられる一皿。
参加者26人全員で囲んだディナー。初対面でも、会話が自然に広がっていく。
参加者26人全員で囲んだディナー。初対面でも、会話が自然に広がっていく。
2品目は、春野菜のスープ〜ミネストローネ仕立て〜。新じゃがやそら豆など、季節の野菜を活かしたやさしい一皿。
2品目は、春野菜のスープ〜ミネストローネ仕立て〜。新じゃがやそら豆など、季節の野菜を活かしたやさしい一皿。
3品目は、地元で水揚げされたイサキを炭火で香ばしく焼き、レモンとタイムが香るバターソースを添えた一皿。アリス・ウォータースが大切にする「地産地消」の考えが込められた一皿。
3品目は、地元で水揚げされたイサキを炭火で香ばしく焼き、レモンとタイムが香るバターソースを添えた一皿。アリス・ウォータースが大切にする「地産地消」の考えが込められた一皿。
「一緒にテーブルを囲んだ人たちと会話が弾み、とても楽しかった」という感想も聞かれた。
「一緒にテーブルを囲んだ人たちと会話が弾み、とても楽しかった」という感想も聞かれた。
4品目は、大山鶏のロースト 〜セージ香るパン粉とグレービーソース〜。 自然の中で育った大山鶏を、皮はパリッと、中はしっとりとロースト。付け合わせの玉ねぎの甘さに、驚く人も。
4品目は、大山鶏のロースト 〜セージ香るパン粉とグレービーソース〜。 自然の中で育った大山鶏を、皮はパリッと、中はしっとりとロースト。付け合わせの玉ねぎの甘さに、驚く人も。
アリス・ウォータースが手がけたレシピ本。シンプルでありながら、食材への愛情が感じられる。この本をもとに今回のレシピが考案された。
アリス・ウォータースが手がけたレシピ本。シンプルでありながら、食材への愛情が感じられる。この本をもとに今回のレシピが考案された。
デザートは、苺とリコッタチーズのハニー・ビネガーマリネ。和歌山まで足を運び、農家の話を直接聞いて仕入れた完熟苺を使用している。
デザートは、苺とリコッタチーズのハニー・ビネガーマリネ。和歌山まで足を運び、農家の話を直接聞いて仕入れた完熟苺を使用している。
今回の特別コースを考案したTALKS cafe & barの森岡シェフ。食材にこだわりを込めてコースを作り上げた。参加者からは、レストランのシェフが農家と消費者をつなぐ大切な役割を担っていると感じたという声も寄せられた。
今回の特別コースを考案したTALKS cafe & barの森岡シェフ。食材にこだわりを込めてコースを作り上げた。参加者からは、レストランのシェフが農家と消費者をつなぐ大切な役割を担っていると感じたという声も寄せられた。

今回のイベントを通じて、食べることは単に栄養を摂るだけでなく、社会が抱えるさまざまな問題ともつながっていることを再認識した。映画でアリス・ウォータースは「farmers first(農家さんが一番)」と何度も語り、農家や生産者を中心に考えることが、持続可能な食の未来を作るために大切だと伝えていた。

私たちが今できることは、毎日の食事を見直すこと。食材を選ぶことは、その生産者をサポートすることにつながる。どんな食材を選び、どのように食べるか。私たちの日々の選択が未来を変える力になる。

これからもPLAT UMEKITAとTALKS cafe & barでは、食を楽しみながら学べる場を提供し、参加者と共に食の本質を見つめ直していく。

(photo: TALKS cafe & bar )

(共催)TALKS cafe & bar

(共催)TALKS cafe & bar

「Farm to Table」をコンセプトに、地元の新鮮な野菜や自然な食材を使った料理を提供するレストラン。地産地消を重視し、丹波、富田林、亀岡などの畑で育った旬の食材をふんだんに使用。食の背景にある生産者の思いや自然の恵みを大切にしている。

「おいしい」を編集しよう

Food Studiesと共に、「食」の企画展の中で開催されたもうひとつのコンテンツが、2月から約2か月半にわたって行われたスクールプログラム「『おいしい』の編集者たち」だ。

参加者は毎週水曜日の夜にPLAT UMEKITAに集まり、自然環境、歴史、命、地域、廃棄、包装、プラントベースなど、各週異なるテーマについて、その領域で活動するゲストのお話を伺いながら考えを深めた。さらに、家庭ではそれぞれのテーマで出題される宿題=「取材」をすることで、自身の生活の中で改めて食を見つめなおし、体感的な気づきも得た。

第1回のテーマは歴史。立命館大学食マネジメント学部の鎌谷かおるさんより、江戸時代は「都市」「農村」「漁村」の結びつきが循環のカギだったことや、江戸の人々の「食を楽しむ姿勢」のお話があり、参加者も興味津々だった。
第1回のテーマは歴史。立命館大学食マネジメント学部の鎌谷かおるさんより、江戸時代は「都市」「農村」「漁村」の結びつきが循環のカギだったことや、江戸の人々の「食を楽しむ姿勢」のお話があり、参加者も興味津々だった。
「廃棄」をテーマにした回では、食品ロス削減に取り組む株式会社ロスゼロの文美月さんにご登壇いただいた。”根強く残る商慣習”もあり、まだおいしく食べられる食材・商品が、加工や流通など消費者からは見えないサプライチェーン上で大量に捨てられているというお話に一同驚愕。
「廃棄」をテーマにした回では、食品ロス削減に取り組む株式会社ロスゼロの文美月さんにご登壇いただいた。”根強く残る商慣習”もあり、まだおいしく食べられる食材・商品が、加工や流通など消費者からは見えないサプライチェーン上で大量に捨てられているというお話に一同驚愕。
「スクールプログラム」とはいえ、和気あいあいとした雰囲気で行われた。仲良くなることで、「これってどうなの?」といった素朴な疑問なども共有しやすくなる。
「スクールプログラム」とはいえ、和気あいあいとした雰囲気で行われた。仲良くなることで、「これってどうなの?」といった素朴な疑問なども共有しやすくなる。

なぜ「編集」か?

今回のスクールプログラムには、「編集」という言葉が入っている。これは、食を通じた営みの中で、私たちは知らず知らずのうちに、豊かな方向にも、そうでない方向にも、何かと何かを結び付けたり、切り離したり、変化させたりしているからだ。

「おいしい」というシンプルな一言は、私たちが日々生きている中で感じる、大きな幸せを象徴する言葉だ。そしてこの言葉とともに、私たちは自然を感じ、人と交流し、技術や文化を育んできた。一方で、近年では生産と消費の現場が離れ、目の前の食に思いを巡らすことなく食べ物を口に運ぶことも増え、気づかないうちに地球や離れた場所にいる人々に負荷をかけているのも事実だろう。

本スクールでは、毎日の食を通じた上記の行いを「編集」ととらえ、各回を経る中で参加者自身が日々行う編集に気づき、意識的になることで、「食べる」という活動を通して社会が、地球が、そして参加者自身の生きる時間がよりよくなることを目指した。

地球環境の回のゲストのケアシェル株式会社の山口慶子さんは、廃棄されるかきがらを二酸化炭素で固めた「ケアシェル」を作り、それを使って海洋酸性化対策と共にアサリを育てる「リジェネラティブ」な活動を行う。アサリのTシャツに、「あさり」と「かき」の文字のピアスを身につけた山口さんの貝への愛に、一同も笑顔になった。
地球環境の回のゲストのケアシェル株式会社の山口慶子さんは、廃棄されるかきがらを二酸化炭素で固めた「ケアシェル」を作り、それを使って海洋酸性化対策と共にアサリを育てる「リジェネラティブ」な活動を行う。アサリのTシャツに、「あさり」と「かき」の文字のピアスを身につけた山口さんの貝への愛に、一同も笑顔になった。
プラントベースな食生活をテーマにした回のゲストは、プラントベースフードブランド「Grino」を運営する内海翔太さん。参加者は実際にプラントベースカレーを試食し、そのおいしさに舌鼓を打ちながら、プラントベースな食事が「地球温暖化を対策として効果的な100つの行動」の中で第4位のインパクトを持つ(※)ことや、一方で現在の日本ではその選択肢がまだ少ないという現実について学んだ。※書籍『DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』より
プラントベースな食生活をテーマにした回のゲストは、プラントベースフードブランド「Grino」を運営する内海翔太さん。参加者は実際にプラントベースカレーを試食し、そのおいしさに舌鼓を打ちながら、プラントベースな食事が「地球温暖化を対策として効果的な100つの行動」の中で第4位のインパクトを持つ(※)ことや、一方で現在の日本ではその選択肢がまだ少ないという現実について学んだ。※書籍『DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』より
「食品包装」の回では、TOPPAN株式会社の竹田剛史さんに改めて包装の意味や近年の変化を伺った。参加者は家庭での取材で毎日の食品包装を集め、その意味を考えることで、単なる「食品包装=ごみ」ではない、一段上の視座を得た。
「食品包装」の回では、TOPPAN株式会社の竹田剛史さんに改めて包装の意味や近年の変化を伺った。参加者は家庭での取材で毎日の食品包装を集め、その意味を考えることで、単なる「食品包装=ごみ」ではない、一段上の視座を得た。

各回ではゲストからの講義に加え、「取材のシェア」や講義後の「対話の時間」など、ゲストと参加者が一緒になって気づきを伝えあったり、質問を投げかけたり、自身の経験や考えていること、さらにはもやもやしていることなどをシェアする時間を設けた。

「思っていたよりプラントベースの食生活って私もできるかもと感じた」
「私も鶏の解体を体験したことがあって…」
「ロスを減らしたいが、消費者に買ってもらい売り上げにならないと活動できず、製造にはコストもかかり、どこから始めるべきか…」

お互いに近い距離感で、正直な気持ちを共有しあい、考えを深めていった。

神戸で放棄されかけたブドウ畑を引き継ぎ、ナチュラルワインを作るViva vin VIVANT(ビバ・バン・ビバン)の宮本健司さん。当日は実際にワインを頂きながら、生産者と消費者のつながりを取り戻すことへの熱い想いを伺った。「有機栽培はそんなに簡単なものじゃないですよ」と、現場にいるからこその言葉には重みがあった。
神戸で放棄されかけたブドウ畑を引き継ぎ、ナチュラルワインを作るViva vin VIVANT(ビバ・バン・ビバン)の宮本健司さん。当日は実際にワインを頂きながら、生産者と消費者のつながりを取り戻すことへの熱い想いを伺った。「有機栽培はそんなに簡単なものじゃないですよ」と、現場にいるからこその言葉には重みがあった。
命をテーマにした回では、長崎県・対馬でジビエの活動をする一般社団法人daidaiの齊藤ももこさんがゲストに。かつて狩猟をしていた人間が狩猟をやめ、昨今ではシカなどの「害獣」が増えるも、その9割が埋葬処分されている現状。「意味ある死にしたいという‘エゴ’」から、ジビエとして丁寧に食肉に加工している。「命」という身近でありながら抽象的な概念を、対話を通じて深掘った。
命をテーマにした回では、長崎県・対馬でジビエの活動をする一般社団法人daidaiの齊藤ももこさんがゲストに。かつて狩猟をしていた人間が狩猟をやめ、昨今ではシカなどの「害獣」が増えるも、その9割が埋葬処分されている現状。「意味ある死にしたいという‘エゴ’」から、ジビエとして丁寧に食肉に加工している。「命」という身近でありながら抽象的な概念を、対話を通じて深掘った。
フィールドワークとして「大阪産料理 空」を訪問。大阪府は食料自給率約1%※とされているが、その日はほぼすべてが大阪産(おおさかもん)食材で作られたランチ。丹精込めて作られた一品一品を驚きと共に味わった。食事の時間はいつも以上に和やかに会話も弾んだ。※農林水産省「都道府県別食料自給率等について:令和4年度」より
フィールドワークとして「大阪産料理 空」を訪問。大阪府は食料自給率約1%※とされているが、その日はほぼすべてが大阪産(おおさかもん)食材で作られたランチ。丹精込めて作られた一品一品を驚きと共に味わった。食事の時間はいつも以上に和やかに会話も弾んだ。※農林水産省「都道府県別食料自給率等について:令和4年度」より

スクールプログラムの最後には、各参加者が気づきや思考、取材の記録をまとめた「最終展覧会」をPLAT UMEKITAのIDEA LABで行い、そのオープニングトークイベントも開催。トークイベントでは、スクールを通じての学びや、「これから自分の食や未来をどう『編集』していきたいか」をそれぞれが発表した。

最終展覧会では、参加者それぞれがボードを作り、学びの軌跡を発信した。オーディエンスにとっては、個人の食への考え方を手触り感のある形で知る機会となった。
最終展覧会では、参加者それぞれがボードを作り、学びの軌跡を発信した。オーディエンスにとっては、個人の食への考え方を手触り感のある形で知る機会となった。
「思いを巡らすこと」を続けていきたいと語る参加者。食を通じて仲良くなった参加者によるトークは、笑顔が絶えなかった。
「思いを巡らすこと」を続けていきたいと語る参加者。食を通じて仲良くなった参加者によるトークは、笑顔が絶えなかった。

想いを持って編集を続けよう

「編集」の後ろには、必ず「想い」がある。「伝えたい」という想い。「こうしたい」という想い。そして、作り手や活動をする人たちの想い。自分の想いと誰かの想いを折り重ねていくことが編集ではないか。

その途上で、もしかすると、なかなか行動できなかったり、「これでよいのか」と迷うときもあるかもしれない。忙しい毎日の中で、想いを持てないことだってあるかもしれない。

けれども、焦らなくていい。自分の想いを持ち、自分以外の人の想いに耳を傾けながら「おいしい」に出会っていくことで、少しずつ変わっていくだろう。

参加者のみなさんが、これからも想いを胸に「編集」を続けていただけたら幸いだ。

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