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笑顔がめぐる場所で見つけた、共生のヒント――「注文をまちがえてもええやんカフェ」開催レポート

笑顔がめぐる場所で見つけた、共生のヒント――「注文をまちがえてもええやんカフェ」開催レポート

PLAT UMEKITAとTALKS cafe & barが共催する、食べることから未来を考えるシリーズイベント「Food Studies(フードスタディーズ)」。その第3弾として、2025年9月21日(日)に「注文をまちがえてもええやんカフェ」が開催された。本レポートでは、社会福祉法人ジー・ケー社会貢献会、社会福祉法人ほしの会の協力のもと、1日限りのカフェをオープンし、ドキュメンタリー映画の上映やトークセッションを通じて、来場者と共に「認知症」に関する理解を深めた一日を振り返る。



執筆
野村蘭(Harch Inc.)
撮影
TALKS cafe & bar
編集
Harch Inc.  

「注文をまちがえてもええやんカフェ」オープン!

毎年9月21日は、国際アルツハイマー病協会(ADI)が制定し、世界保健機関(WHO)も支援する「世界アルツハイマーデー」である。日本でも、この日を「認知症の日」と定め、さまざまな啓発活動が行われている。

その一つが、一般社団法人「注文をまちがえる料理店」の呼びかけによる「ま、いっかの日」だ。この日に合わせて、料理店を舞台にした取り組みが全国各地で実施される。PLAT UMEKITAとTALKS cafe & barもその趣旨に賛同し、1日限りの「注文をまちがえてもええやんカフェ」をオープンした。

エプロン姿で来場者を迎えたのは、社会福祉法人ジー・ケー社会貢献会 グルメ杵屋社会貢献の家と、社会福祉法人ほしの会を利用する5名の方々だ。



「いらっしゃいませ」の声が響くたびに、会場にはあたたかな空気が広がった。
「いらっしゃいませ」の声が響くたびに、会場にはあたたかな空気が広がった。
一人ひとりの来場者に声をかけ、丁寧に注文をとっていく。 伝票は、わかりやすく、間違いが起きにくいように、 TALKS cafe & barが工夫して作成した。
一人ひとりの来場者に声をかけ、丁寧に注文をとっていく。 伝票は、わかりやすく、間違いが起きにくいように、 TALKS cafe & barが工夫して作成した。
テーブルに届けられるのは、おいしい料理と優しい笑顔だ。その一つひとつに、つくる人、運ぶ人、食べる人の想いが重なっていた。
テーブルに届けられるのは、おいしい料理と優しい笑顔だ。その一つひとつに、つくる人、運ぶ人、食べる人の想いが重なっていた。
「おいしいですよ」と声をかけながら料理を届ける。そのたびにテーブルのあちこちから笑顔がこぼれる。
「おいしいですよ」と声をかけながら料理を届ける。そのたびにテーブルのあちこちから笑顔がこぼれる。
カフェのあちこちで会話が弾み、笑顔が広がっていく。
カフェのあちこちで会話が弾み、笑顔が広がっていく。
カフェには、あたたかな時間が流れていた。
カフェには、あたたかな時間が流れていた。
普通のカフェでは生まれないような交流があちこちで見られた。
普通のカフェでは生まれないような交流があちこちで見られた。

イベント終了後には、感想が数多く寄せられた。中でも印象的だったのは、介護現場で働くスタッフの言葉だ。

「『迷惑かけてごめんなー』と言われることが多い中、店員さんとして『ありがとう』『また来てくださいね』と言っている姿を見るのは、本当に嬉しかったです」

「特養やデイサービスでお会いする時とはまた違った、キラキラした笑顔が見れました。施設でも関わり方を改めて考えさせられるいい機会になりました」

また、来場者からも次のような声が寄せられた。

「この取り組みに関心があり、参加しました。企業の中でどのように理解を広げ、文化をつくっていくのかに関心があります。(介護世代のスタッフへの配慮など)」

「とても楽しく、心おだやかになる一日でした。誰もが誰かを認め、許しあい、おだやかな心で接することができれば、より良い社会や世界になるのではないかと思いました」

「誰もが役割を持ち、社会に貢献し、人とつながることの大切さを改めて感じました。」

映画とクロストークで考える「認知症」

ランチの後は、会場をPLAT UMEKITAに移し、大阪・北浜を舞台に、認知症の状態にある母と二人で暮らす娘の日常を描いたドキュメンタリー映画『徘徊 ママリン87歳の夏』を上映。

映画上映後には、社会福祉法人ほしの会 理事長の池田美佐子さん、社会福祉法人ジー・ケー社会貢献会 グルメ杵屋社会貢献の家 相談員の幾田英貴さん、株式会社エルワールド 代表取締役(TALKS cafe & bar)の高橋香織さん、そしてPLAT UMEKITA企画編集室ディレクター・TOPPAN株式会社の木村和也が登壇し、クロストークを実施した。



ドキュメンタリー映画『徘徊 ママリン87歳の夏』を上映。認知症をテーマに、母と娘の関係や日常のリアルを描いた作品に、多くの来場者が心を寄せた。
ドキュメンタリー映画『徘徊 ママリン87歳の夏』を上映。認知症をテーマに、母と娘の関係や日常のリアルを描いた作品に、多くの来場者が心を寄せた。
クロストークでは、介護の現場からのリアルな声や、映画を通じて感じたことなどの意見が交わされた。
クロストークでは、介護の現場からのリアルな声や、映画を通じて感じたことなどの意見が交わされた。
グルメ杵屋社会貢献の家 相談員の幾田英貴さんはイベントについて、「実際に働いていただいたお二人は、とても緊張されている様子でしたが、それは普段は味わえない良い緊張感だったと思います。とても良い表情をされていました」と語った。
グルメ杵屋社会貢献の家 相談員の幾田英貴さんはイベントについて、「実際に働いていただいたお二人は、とても緊張されている様子でしたが、それは普段は味わえない良い緊張感だったと思います。とても良い表情をされていました」と語った。
ほしの会 理事長の池田美佐子さんは認知症について、「ご本人やご家族に『認知症』という言葉を直接お伝えするのは、とてもデリケートな問題です。ご本人たちも『最近、物忘れがひどくて』とおっしゃいますが、それは私たちにもあることですよね。それが少し頻繁に起こるような感覚なのだと、私は捉えています」と語る。
ほしの会 理事長の池田美佐子さんは認知症について、「ご本人やご家族に『認知症』という言葉を直接お伝えするのは、とてもデリケートな問題です。ご本人たちも『最近、物忘れがひどくて』とおっしゃいますが、それは私たちにもあることですよね。それが少し頻繁に起こるような感覚なのだと、私は捉えています」と語る。
イベントを見学した学生からは、「今日皆さんが笑顔で接客されている姿を見て、イメージが大きく変わりました」という声が聞かれた。
イベントを見学した学生からは、「今日皆さんが笑顔で接客されている姿を見て、イメージが大きく変わりました」という声が聞かれた。
来場者の福祉関係者からは、「映画の中で、お母様が一人で歩くのを家族が見守るシーンがありましたが、まさにあれが私たちの目指す支援の姿です。ご本人ができることを先回りして奪うのではなく、その力を信じて見守ることが、本来の介護のあり方だと思います」という意見が寄せられた。
来場者の福祉関係者からは、「映画の中で、お母様が一人で歩くのを家族が見守るシーンがありましたが、まさにあれが私たちの目指す支援の姿です。ご本人ができることを先回りして奪うのではなく、その力を信じて見守ることが、本来の介護のあり方だと思います」という意見が寄せられた。
PLAT UMEKITAを運営するTOPPANによる アルツハイマー病検査システムや、介護レクリエーションサービス「WAN-かいご」のパネル展示も行われた。 アートセラピー「臨床美術」の紹介展示も来場者の関心を集めた。
PLAT UMEKITAを運営するTOPPANによる アルツハイマー病検査システムや、介護レクリエーションサービス「WAN-かいご」のパネル展示も行われた。 アートセラピー「臨床美術」の紹介展示も来場者の関心を集めた。
今回のカフェ運営に協力した株式会社エルワールド 代表取締役高橋さんは、「通常のカフェであれば『注文間違い』はクレームになりかねませんが、ここではそれが温かいコミュニケーションのきっかけになっていました。今日、スタッフとして参加された方々の素敵な笑顔を見て、本当に開催して良かったと思います」と語った。
今回のカフェ運営に協力した株式会社エルワールド 代表取締役高橋さんは、「通常のカフェであれば『注文間違い』はクレームになりかねませんが、ここではそれが温かいコミュニケーションのきっかけになっていました。今日、スタッフとして参加された方々の素敵な笑顔を見て、本当に開催して良かったと思います」と語った。

「注文をまちがえてもええやんカフェ」の開催にあたっては、大阪大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 准教授・山川みやえ先生、公益財団法人 浅香山病院 認知症専門医・釜江和恵先生に意見を伺いながら企画した。



PLAT UMEKITA企画編集室ディレクター・TOPPAN株式会社の木村和也は、 実際に浅香山病院を訪れ、当事者や家族の声に耳を傾け、 そこで感じた思いをもとにイベントを企画したという。
PLAT UMEKITA企画編集室ディレクター・TOPPAN株式会社の木村和也は、 実際に浅香山病院を訪れ、当事者や家族の声に耳を傾け、 そこで感じた思いをもとにイベントを企画したという。

クロストークの最後に、木村は釜江先生がおっしゃった言葉を振り返った。

「今回のイベントの参加者は、認知症に対してもともと興味や問題意識を持っている人たちです。しかし、医療の現場から見ると、世の中には認知症に対して関心の低い人たちがたくさんいます。次の課題は、そうした関心のない層にどうアプローチし、どう関心を持ってもらうかです」(釜江先生)

「注文をまちがえてもええやんカフェ」で得た学びを、より広い社会へとどう広げていくか——。その問いが、次の一歩につながっていきそうだ。

(photo: TALKS cafe & bar )

 

(共催)TALKS cafe & bar

(共催)TALKS cafe & bar

「Farm to Table」をコンセプトに、地元の新鮮な野菜や自然な食材を使った料理を提供するレストラン。地産地消を重視し、丹波、富田林、亀岡などの畑で育った旬の食材をふんだんに使用。食の背景にある生産者の思いや自然の恵みを大切にしている。
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