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ダンボール彫刻家と廃品楽器ユニット、TOPPANが提案する「楽しいアップサイクル」とは
2024年9月6日、梅田駅前に開園するうめきた公園。その中心にある「PLAT UMEKITA」ではオープニングイベントとして、体験型企画展『アップサイクル・アニマルズ』が開催される(2024年9月29日まで)。会場にはダンボールでつくられた動物たちや廃棄素材を活用した手づくり楽器が展示され、コンポストの動力によってそれらを光らせたり、音を鳴らしたりとユニークな体験ができます。また週末にはダンボールを使ったお面づくりや楽器づくりなど、さまざまなワークショップも開催されます。
PLAT UMEKITAが掲げる、エシカルとエンタメを融合した「エシカルテインメント」の第一弾となるアップサイクル・アニマルズ。その仕掛け人であるTOPPANの木村和也、作品を展示するダンボール彫刻家の本濃研太さん、日用品演奏ユニット・kajiiさんに、企画展の内容やそこに込めた思いなどをうかがいました。
- 取材・執筆
- 榎並紀行(やじろべえ)
- イラスト
- ケント・マエダヴィッチ
- 編集
- 服部桃子(CINRA, Inc.)
作品は繊細かつ大雑把に。ダンボールや廃品の質感を生かす
――9月6日にオープンするPLAT UMEKITAのオープニングを飾る体験型企画展「アップサイクル・アニマルズ」で、本濃さん、kajiiさんには作品の出展やワークショップの講師などを務めていただきます。その内容についてうかがう前に、お二人の普段の活動を教えてください。
本濃
僕は2003年頃からダンボール彫刻家として活動しています。不要になったダンボールで成形しアクリル絵の具で着彩した動物や仮面、オブジェなどを美術館、ギャラリー、イベントで発表するのが主な活動ですね。以前は演劇や音楽の舞台美術なども手掛けていました。
――本濃さんのウェブサイトに作品集が掲載されていますが、モチーフが多彩かつ、一つひとつの作品の表情も個性的で、見る者を圧倒するような力強さがあります。
本濃
基本的に、自分が好きなものを作品にしています。なかでも、やっぱり動物は魅力的ですね。それぞれの動物の形や色、動きなどは見ていて面白いですし飽きません。動物の姿や構造を考えながらつくっていると、よりその凄さがわかるんです。
それから、作品全体に共通するのは「繊細かつ大雑把」につくるということ。できるだけきちっとはしたくないというか、「なんか、ちょっと乱れている」というくらいのほうがカッコいいし、心を揺さぶるような気がするんですよ。
kajii
わかります。僕らもペットボトルなど身の回りの廃品を使って楽器を手づくりしているのですが、あえてちょっと雑につくるというか、もともとの素材感を隠さないようにしています。見た人に「これなら自分にもできそう」と思ってもらって、真似をしてほしいんです。
本濃
YouTubeでkajiiさんの自作パイプオルガンを拝見しましたが、あれも素材の感じがそのまま出ていて面白いですね。仕組みは簡単そうなのに、本当にパイプオルガンみたいな音が出ていて驚きました。
――kajiiさんはほかにも、さまざまな日用品や廃品を使って楽器をつくっているんですよね。これまで100種類以上の楽器を制作されたとか。
kajii
なかには本当にしょうもないものもありますけどね(笑)。メインはさまざまな形のお茶碗を並べてメロディーを奏でる「食琴」で、それを使ったコンサートを行なっています。あとは、ペットボトルや空き缶、ビニール傘、ダンボールなどの廃品オンリーで楽器をつくって演奏する「みらい楽器ラボ」という活動もしていて、そこではみんなで廃品楽器をつくってコンサートをするワークショップもやったりしますね。
――kajiiさんの作品集を見ていると、「こんなものから、こんな音が出るのか」と驚かされます。
kajii
ありがとうございます。もちろん「この素材だったら、こんな音が出るだろうな」とある程度、予想してつくることもありますが、たまにまったく想像していなかった音が出ることもあって。「これ、なんか不思議な音がするな」というところから突き詰めて楽器をつくっていくのもすごく楽しいですね。
自分たちの「楽しい」が、地球のためにもなる
――TOPPANの木村さんにおうかがいしたいのですが、PLAT UMEKITAのオープニングイベントにあたって、本濃さん、kajiiさんとコラボレーションすることになった経緯を教えてください。
木村
まず、本濃さんの動物モチーフの作品を見たときに、「公園のなかに『動物園』をつくれたら面白いんじゃないか」と考えました。そこに何かしらの「体験」を入れたいなと考えたときにkajiiさんの作品を見て、これを絡めて体験者が音を鳴らしたり、触れたり、動かしたりといったエンタメ要素を加えられたら楽しいんじゃないかと。そこで本濃さん、kajiiさんにお願いすることにしました。
先ほども話が出ましたが、本濃さんがおっしゃる「繊細で大雑把」という言葉も、個人的にはすごくいいなと感じていて。公園にぷらっと立ち寄ったときに、そこにあるものがあまりにも洗練されすぎていて高尚だったりすると、ちょっと居心地が悪いですよね。
もちろん本濃さんは大雑把といいつつ、じつはすごいことをやられているのですが、なんとなく身近に感じてもらえる作品という意味では、僕らがここでつくりたい温度感にもマッチしているのかなと思います。
――本濃さん、kajiiさんの活動は、PLAT UMEKITAが掲げる「エシカルテインメント」というコンセプトにも、すごくフィットするように感じます。
<エシカルテインメントとは?>
これは「ETHICAL(倫理的な)」と「ENTERTAINMENT(娯楽)」をかけ合わせた造語で、エシカルを近寄りがたいものではなく、体験型のイベントなども通じた誰もが楽しめるかたちで提示していきたいという思いが込められている。
木村
そうですね。「楽しく」するためには僕らだけでなく、アーティストやクリエイター、ミュージシャンの方々など、エンターテイメントに関わる人たちのお力を借りる必要がある。そうしたパートナーさんと一緒に仕掛けるエシカルにまつわる楽しい体験を通じて、来場者のみなさんに何かしらの気づきを得ていただけるような施設にしたいと考えています。
そんな場を目指すにあたり、最初のイベントをどうするか考えたときに「アップサイクル」というテーマが浮かびました。
本濃さん、kajiiさんがまさに体現されていますが、ダンボールやペットボトルなど身の回りにある廃品って、そこに少し創造性を加えるだけですごく楽しいものに変わるじゃないですか。そうした発想を持つきっかけさえあれば、生活のなかでも実践していけるはず。
PLAT UMEKITAに来てくれた子どもたちが本濃さん、kajiiさんのアップサイクル作品を見て、ワークショップで体験してみて、自分の家でもチャレンジしてみる。それを、たとえばおばあちゃんにも教えてあげて、家族みんなでアップサイクルを楽しみながらエシカルについて考えるようになる。そんなふうに広がっていくのが理想ですね。
――本濃さん、kajiiさんはこの「エシカルテインメント」というコンセプトに共感する部分はありますか?
本濃
そうですね。僕自身は廃材のダンボールを使っているものの、正直「エコのため」という意識ではなくて。もともとは大きいオブジェをつくりたいと考えたときに、ダンボールのゴツゴツした感じとか、完全にコントロールできない独特の表情とか、いびつな形ができるところに魅力を感じて使い始めました。
何より、ダンボールで作品をつくるのは楽しい。だから、どちらかというと「テインメント」が先行しています。ただ、エシカルの部分でいえば、ダンボールはスーパーで廃棄されるものをもらってくるのですが、一度で大量に持っていくようなことはしません。みんなのぶんも残しておくというか、一人で独占せず、なるべく分け合うように心がけていますね。
kajii
僕らも本濃さんと同じで、まずは自分たちが楽しみたいという気持ちが先にあります。僕らが特に楽しさを感じるのは、楽器を見た人、聞いた人が驚いてくれること。身の回りのものや捨ててしまっているもので、「こんなことができるんだ」「こんな音が鳴るんだ」と思ってもらうことです。
そういう意味では、多くの人が「ごみ」と認識しているものを使ってつくるほうが、もともとのハードルが低いぶん良いものができたときの驚きが大きくなるので楽しいですね。ですから、なるべく安っぽいもの、利用価値がないと思われているものほど、僕らにとっては良い素材と言えるかもしれません。
木村
kajiiさんのペットボトル楽器なんて、見た目からしてカッコいいですもんね。まさに「ペットボトルがこんなことになるんだ」と驚かされる作品です。
kajii
ありがとうございます。デザインにはかなりこだわっているので嬉しいです。演奏はしづらいんですけどね(笑)。一般的に認識されているアップサイクル楽器って、どうしても期待値が低いんですよね。「空のペットボトルにビーズとか入れてガシャガシャ鳴らすだけでしょ?」みたいに思われているところがあって。そのハードルを大きく超えたいという思いはあります。
――ちなみに、いま楽器の素材として注目している廃品って何かありますか?
kajii
正直、廃品に関してはありとあらゆるものを使ってきたので、ネタ切れ感はありますね(笑)。いま興味があるのは、小学校で使っていたピアニカやリコーダー。ああいう楽器って、中学に上がると使わなくなるじゃないですか。そういう、みんなの家の物置に眠っているもので何かできないか考えています。
「公園」という場所ならではのエシカルテインメントをつくる
――本濃さん、kajiiさんのお話をうかがって、あらためてすごく楽しいイベント、場になりそうだなと感じました。
木村
そうですね。僕もあらためて、みなさんにお願いしてよかったなと。というのも、本濃さんもkajiiさんも、まずは「自分たちが楽しくてやっている」とおっしゃっていたじゃないですか。それって僕らがエシカルテインメントで唱えていた仮説そのものなんです。
いま、多くの企業がSDGsやサステナブルやエシカルをキーワードに、積極的に社会課題に取り組んでいますが、残念ながらあまり世間一般には伝わっていないように感じます。いくらウェブサイトに「私たちはカーボンニュートラルを目指し、こんな取り組みをしています」と書いても、多くの人には響かない。それはなぜかというと、おそらく「楽しくなさそうだから」じゃないかと思うんです。やはり、そこに楽しさがないと広がっていかないんですよね。
本濃さん、kajiiさんは「地球環境に良いことをしなければ!」と気負っているわけでもないし、そんな意識はないと思いますが、僕ら企業の人間側からは「エシカルテインメントの体現者」のように映ります。そんな方々と最初の企画でご一緒できるのは、本当にありがたいですね。
――では、最後にみなさんにおうかがいします。「アップサイクル・アニマルズ」のイベントに訪れる人たちに、どんなふうに楽しんでほしいか、ここでどんなことを感じてほしいか教えてください。
本濃
やはり動物の彫刻ということで、さまざまな生き物の形や動きの面白さ、すごさを感じてほしいですね。また、ダンボールという身近な素材でつくられた作品を見ることで、身の回りにあるいろんなものに関心を持つきっかけにしてもらえると嬉しいです。たとえば、家具とか食器とか、目の前にあるものがどんな素材でできていて、誰がどこでつくっているか考える。それが最終的にエシカルというところにまで結びつくかはわからないけど、その一歩目になればいいのかなと思います。
kajii
まずは来場してくださる方に「音楽を好きになってほしい」というのが一番ですね。会場には僕たちがつくった楽器をいくつか展示しますが、ぜひ自由に鳴らしてみてほしいです。楽器って曲が弾けないと面白くないと感じてしまうこともあるんですけど、今回は音階を持たない楽器も用意しています。ハンドルを回すだけで音が出たり、適当にポロンポロンと鳴らすだけでも楽しいと思うので、単純に音を出したり聴いたりすることの面白さを感じてもらえたら嬉しいです。
あとは日用品だったり、ごみだったり、普段身近にあるものが視点や発想を変えるだけでまったく別のものに生まれ変わる。そうやって工夫する喜びみたいなことも感じてほしいと思います。最近はいろんなものがすぐ手に入る時代になったぶん、自分で何かをつくる機会が減っていると思うので、イチから工夫してつくることを楽しいと感じてもらえたら最高ですね。
木村
PLAT UMEKITAは公園のなかにある施設なので、せっかくなら本濃さんのワークショップでつくったお面をかぶって公園で鬼ごっこをしたり、kajiiさんに教えてもらった手づくり楽器を公園で演奏してみたり、つくって終わりではなくそれを使って遊んでほしいと思っています。
公園は誰にでも開かれた場所ですし、公園だからこそできることもたくさんある。これからも、そんなユニークな場所ならではの利点を活かして、思わずぷらっと訪れたくなるようなイベントをつくっていきたいです。
▼『アップサイクル・アニマルズ』の詳細はこちら
https://platumekita.com/exhibitions/upcycle-animals/